(

A01-002小林グループ

論文等 | 原著論文

2016

*Shumpei Yamamoto, Sosuke Ito, Naoto Shiraishi, and Takahiro Sagawa,
Linear irreversible thermodynamics and Onsager reciprocity for information-driven engines,
Phyical Review E 94, 052121/1-11 (2016).

概要: 我々は線形非平衡熱力学の枠組みを、広いクラスの自律的情報処理について定式化した。とくに、オンサーガ相反関係が「情報流」「情報アフィニティ」に対しても成立することを証明した。応用として、最大パワー(仕事率)のときの情報熱力学効率の普遍的な上限を導いた。この結果は線形非平衡熱力学においても情報流が重要な役割を果たすことを示している。

Naoto Shiraishi, Keiji Saito and Hal Tasaki,
Universal trade-off relation between power and efficiency for heat engines,
Physical Review Letters 117, 190601/1-5 (2016).

概要: 齊藤は、以前、オンサーガー行列を使った形式的な議論から、時間反転対称性を破る系ではカルノー効率と有限仕事率の共存が許される可能性があることを指摘した。それ以来、熱効率と仕事率に関するトレードオフ関係に関して多くの研究が様々な角度からなされた。今回齊藤らは、マルコフなダイナミクスにおいて、ほぼ全ての熱機関に当てはまる厳密なトレードオフ関係式を導出することに成功した[1]。この関係式によれば、時間反転対称性の有る無しに関わらずカルノー効率は仕事率の消失を意味する。これは、熱力学において時間軸での厳密な原理が与えられたことに相当する。

Takuma Akimoto, Eli Barkai, Keiji Saito,
Universal Fluctuations of Single-Particle Diffusivity in Quenched Environment,
Physical Review Letters 117, 180602 (2016).

概要: 細胞内のタンパク質の拡散などが近年観測され始め、動的な挙動が生体内でどのような役目を果たしているかが分かってきている。このような実験で分かってきていることは、細胞内ではポテンシャルが乱れおり、タンパク質の拡散が非常に遅いことである。このような状況を念頭に置き、クエンチされたランダムポテンシャル系における拡散現象を厳密に解析した。ポテンシャルの深さの分布をベキ分布にした場合、指数に応じて拡散が変わることを厳密に示した。また、拡散係数が一意的に決まらない領域が存在すること、そのときの拡散係数の分布関数が、逆レビー分布で与えられることを厳密に示した。

Yoshimichi Teratani, Rui Sakano, Ryo Fujiwara, Tokuro Hata, Tomonori Arakawa, Meydi Ferrier, Kensuke Kobayashi and Akira Oguri,
Field-enhanced Kondo correlations in a half-filling nanotube dot: evolution of an SU(n) Fermi-liquid fixed point,
Journal of the Physical Society of Japan 85, 094718/1-18 (2016).

概要: カーボン・ナノチューブから作られる量子ドットは4重縮退した一粒子準位を持っているため、様々な近藤状態が発現する舞台となっている。我々は、2電子フィリング(ハーフフィリング)において、磁場中でSU(2)近藤状態が生じることを理論的に研究したので報告する。

Johannes Stigloher, Martin Decker, Helmut S. Körner, Kenji Tanabe, Takahiro Moriyama, Takuya Taniguchi, Hiroshi Hata, Marco Madami, Gianluca Gubbiotti, Kensuke Kobayashi, Teruo Ono, and Christian H. Back,
Snell’s Law for Spin Waves,
Physical Review Letters 117, 037204/1-4 (2016).

概要: 入射波、反射波、屈折波をイメージングすることによって、パーマロイ薄膜におけるスピン波に対するスネルの法則を実験的に観測したことを報告する。我々は、異なる分散関係を持つ二つの媒質の間に設けられた段差を利用した。我々の発見は、スピン波を利用したマグのニクス等への応用が期待される。

Keiji Saito and Abhishek Dhar,
Waiting for rare entropic fluctuations,
Europhys Letters 114, 50004/1-6 (2016).

概要: 完全計数統計などでは、一定の観測時間内にどれくらいのエントロピーが発生するかを考える。このような観測は、メゾスケールの電気伝導実験では一定時間に電流を測ることでなされてきており、電流ゆらぎの定量的理解につながっている。これまでの計数統計を踏まえ、逆の過程を考えた。つまり、目標となるエントロピーを決め、それに至るまでの時間の分布を考えるのである。これはつまるところエントロピーに関するFirst Passage Time distribution に相当する。幾つかの例題を通して、普遍的な分布を求めた。

Tatsuya Muro, Yoshitaka Nishihara, Shota Norimoto, Meydi Ferrier, Tomonori Arakawa, *Kensuke Kobayashi, Thomas Ihn, Clemens Rösler, Klaus Ensslin, Christian Reichl, and Werner Wegscheider,
Finite shot noise and electron heating at quantized conductance in high-mobility quantum point contacts,
Physical Review B 93, 195411/1-7 (2016).

概要: 量子ポイントコンタクトにおける精密なショット雑音測定を報告する。極めて清浄な系であることと、非常に高精度な雑音測定が可能であるという二つの利点を活かして、ファノ因子を0.01の精度で精密に決定することができた。ショット雑音が理論予想よりも少しだけ増大するという現象を見出し、それが磁場印加によって消失することを議論した。量子ホール効果状態では、完全に消失することw確認した。これらの現象は、量子ポイントコンタクト周囲における電子加熱であるとして説明された。

*Aki Kutvonen, Takahiro Sagawa, and Tapio Ala-Nissila,
Thermodynamics of information exchange between two coupled quantum dots,
Phyical Review E 93, 032147/1-7 (2016).

概要: 二つの量子ドットを用いて、測定の熱力学を定量的に解析できるモデルを提案した。このモデルでは、外部パラメータの操作によって測定とその後のフィードバックが分離して行われる。これはシラード・エンジンに対応した設定になっている。我々はこのモデルにおいて、単一軌道のレベルでのエントロピー生成について解析し、とくに「積分型ゆらぎの定理」をエントロピー生成およびその粗視化に対して導いた。 

Shunpei Takeshita, Sadashige Matsuo, Takahiro Tanaka, Shu Nakaharai, Kazuhito Tsukagoshi, Takahiro Moriyama, Teruo Ono, Tomonori Arakawa, and Kensuke Kobayashi,
Anomalous behavior of 1/f noise in graphene near the charge neutrality point,
Applied Physics Letters 108, 103106/1-4 (2016).

概要: 単層グラフェン素子における電流雑音について、平衡状態から極端な非平衡状態まで調査した。その結果、1/f雑音のバイアス電圧依存性に異常な振る舞いを見出した。具体的には、電荷中性点近傍では、高バイアスではフーゲ則が成り立たないが、低バイアスでは成り立つ、というものである。この原因として、電子ホールパドルのでピニングが関わっている可能性を提案した。

Tomotaka Kuwahara, Takashi Mori, and Keiji Saito,
Floquet-Magnus Theory and Generic Transient Dynamics in Periodically Driven Many-Body Quantum Systems,
Annals of Physics, 96-124 (2016).

概要: 近年量子孤立系での熱化の問題が大事になってきている。量子孤立系に周期外場をかけるとどのような熱化が起こるだろうか?量子孤立系周期外場をかけたとき、一般に保存量がなくなり、系の状態はすべての状態を経巡るであろう。このような状態は温度が無限大の状況に相当する。この考え方はいわゆるEigenstate Themalization を周期外場に拡張したFloquet eigenstate thermalization と言われる。そこで、疑問は温度無限大に移行する熱化のタイムスケールはどうなるのか?という問題である。この論文ではこの問題を考えるための基礎理論を構築した。とくにフローケマグナス展開に着目して、一般論を構築した。 【齊藤圭司(議論、論文執筆)】

*Kenji Tanabe, Ryo Matsumoto, Jun-Ichiro Ohe, Shuichi Murakami, Takahiro Moriyama, Daichi Chiba, Kensuke Kobayashi and Teruo Ono,
Observation of magnon Hall-like effect for sample-edge scattering in unsaturated YIG,
physica status solidi (b) 253, 783-787 (2016).

概要: 我々はイットリウム鉄ガーネット結晶の試料端においてマグノンの散乱によって起因するマグノンホール効果に類似した現象を観測した。本研究は、室温において赤外線温度測定装置を用いて行われた実験である。磁化が飽和していない状態においてマグノンが試料端に打ち込まれた時、横方向に大きな温度勾配を観測した。これは、マグノンホール効果による可能性がある。意外なことに、我々は、この効果が、ベリー曲率によるマグノンホール効果が理論的に予想されている飽和状態の時よりも、飽和していないときの方が大きいことを見出した。

Naoto Shiraishi, Takumi Matsumoto, and Takahiro Sagawa,
Measurement-feedback formalism meets information reservoirs,
New Journal of Physics 18, 013044/1-8 (2016).

概要: これまでの研究では、情報熱力学には2つの異なった定式化が知られていた。ひとつは測定・フィードバックのフォーマリズムで、もう一つは情報浴のフォーマリズムである。本研究では両者が統一的に定式化できることを示し、従来よりも強い第二法則の不等式を導いた。 

*Tokuro Hata, Tomonori Arakawa, Kensaku Chida, Sadashige Matsuo, and Kensuke Kobayashi,
Giant Fano factor and bistability in a Corbino disk in the quantum Hall effect breakdown regime,
Journal of Physics: Condensed Matter 28, 055801/1-7 (2016).

概要: コルビノ円板型の試料において量子ホール効果ブレークダウン現象にともなう雑音測定を行った。サイズの異なる2種類のコルビノ円板型試料を測定することにより、コンタクト間の距離が増大するとファノ因子が増大することを見出したが、これは、ブートストラップ型電子加熱モデルに合致する。ファノ因子の温度依存性の測定も行った。さらに、非線形性が強い領域では、負性抵抗と発振現象を観測した。この現象と、ツェナートンネルとの関わりについて論じた。

*Meydi Ferrier, Tomonori Arakawa, Tokuro Hata, Ryo Fujiwara, Raphaëlle Delagrange, Raphael Weil, Richard Deblock, Rui Sakano, Akira Oguri, and *Kensuke Kobayashi,
Universality of non-equilibrium fluctuations in strongly correlated quantum liquids,
Nature Physics 12, 230-235 (2015).

概要: 多数の粒子が互いに量子力学的に影響を及ぼしあうとき、粒子一個の性質からは全く想像できないような奇妙な振る舞いを示すことがある。このような現象を量子多体現象と呼び、そのような現象を示す粒子の集団のことを量子液体と呼ぶ 。本研究は、典型的な量子多体現象である近藤効果によって形成される量子液体を用いて行われた。微細加工技術を用いて作製された人工原子中の量子液体における電流ゆらぎを、世界最高水準の測定技術により精密に測定することによって、理論的に予測されてきた非平衡状態にある量子液体の挙動を詳細に明らかにすることに成功した。量子多体現象は、長年にわたって物理学の中心的な課題の一つであるが、極めて高い精度で理論の検証に成功した本成果は、物質の新しい性質・機能を見いだすなど、今後の研究の発展に貢献していくものと期待される。

2015

*Sadashige Matsuo, Shunpei Takeshita, Takahiro Tanaka, Shu Nakaharai, Kazuhito Tsukagoshi, Takahiro Moriyama, Teruo Ono, Kensuke Kobayashi,
Edge mixing dynamics in graphene p–n junctions in the quantum Hall regime,
Nature Communications 6, 8066/1-6 (2015).

概要: 量子ホール状態にあるグラフェンpn接合では、量子ホール状態が完全に混じりあう結果、接合の両側への電子の分配過程の存在が推察されていたが、この電子分配過程を直接的に実証した報告はなかった。我々は、ゲート電極を組み合わせることによりpn接合を形成可能なグラフェン試料を作製し、低温強磁場下において高精度な電流ゆらぎ測定を行った。その結果、量子ホール状態でpn接合のある場合にはショット雑音が発生するのに対し、pn接合のない場合にはショット雑音が発生しないことを明らかにした。また、観測されたショット雑音の大きさが、理論予想とほぼ一致することも実証した。これらの結果は、量子ホール状態にあるpn接合が電子を分配するということを初めて直接的に示した成果であり、グラフェンpn接合で起こる電子分配の微視的特性を初めて定量的に確立したものである。

Kay Brandner, Keiji Saito, and Udo Seifert ,
Thermodynamics of Micro- and Nano-Systems Driven by Periodic Temperature Variations,
Physical Review X 5, 031019 (2015).

概要: この論文では、ゆらぐ熱環境における熱機関を考えるための線形応答理論の定式化を行った。この定式化によって、マルコフなダイナミクスに従う一般的な系で、効率と仕事率の関係を系統的に探ることができるようになった。その結果、一般にはオンサーガー係数は非対称になる。特に、仕事率の上限を効率の言葉で書くことができ、効率がカルノー効率に到達すると仕事率が消失することがわかる。 【齊藤圭司(研究および論文執筆)】

*Sadashige Matsuo, Shu Nakaharai, Katsuyoshi Komatsu, Kazuhito Tsukagoshi, Takahiro Moriyama, Teruo Ono, and Kensuke Kobayashi,
Parity effect of bipolar quantum Hall edge transport around graphene antidots,
Scientific Reports 5, 11723/1-7 (2015).

概要: 物理学では、整数値を取る物理量の偶奇性に依存して、物理現象が質的に全く異なる振る舞いを示すことがある。このような物理量の偶奇性という抽象的な概念に基づいた現象の分類はパリティ効果と呼ばれ、物理現象の理解に極めて重要な役割を果たす。我々は、グラフェン素子上に形成したpn接合における量子ホール端状態の電気伝導について考察し、伝導度の振る舞いが、pn 接合の数が偶数であるか奇数であるかによって決まってしまうこと(=パリティ効果)を理論的に見いだし、実験的に検証することに成功した。この成果は、グラフェンの pn 接合における量子ホール状態を用いて、様々な電子の干渉計(量子干渉素子)を実現できる可能性を示唆する。

*Sosuke Ito, Takahiro Sagawa,
Maxwell’s demon in biochemical signal transduction with feedback loop,
Nature Communications 6, 7498 (2015).

概要: 近年、情報理論と熱力学を融合させた「情報熱力学」が理論と実験の両面から注目を集めている。本研究で我々は、情報熱力学を生体内のシグナル伝達の解析に応用した。とくにフィードバックループがあるシグナル伝達の例として、大腸菌の走化性の適応モデルを解析した。我々は、情報熱力学の第二法則を応用することにより、大腸菌の適応の外界からのノイズに対する頑健性と、フィードバックループ内を流れる情報流の間の定量的な関係を発見した。とくに、transfer entropyと呼ばれる情報量が、適応度の上限を与えることが明らかになった。さらに我々の数値実験結果から、大腸菌の適応ダイナミクスは、通常の熱機関としては非効率(散逸的)だが、情報熱機関としては効率的であることが明らかになった。我々の結果は、生体内の情報処理を情報熱力学の観点から解析する第一歩になると考えられる。

*Naoto Shiraishi, Sosuke Ito, Kyogo Kawaguchi, and Takahiro Sagawa,
Role of measurement-feedback separation in autonomous Maxwell’s demons,
New Journal of Physics 17, 045012/1-11 (2015).

概要: 自律的マクスウェルデーモンにおける、測定とフィードバックの役割を明らかにした。とくに、自律的ではあるが測定とフィードバックのタイミングが分離している新しいモデルを提案し、それと従来知られていた分離していないモデルの比較を行った。その結果、後者が前者の極限として得られることが、ゆらぎの定理のレベルで明らかになった。 

*Kiyoshi Kanazawa, Tomohiko G. Sano, Takahiro Sagawa, and Hisao Hayakawa,
Minimal Model of Stochastic Athermal Systems: Origin of Non-Gaussian Noise,
Physical Review Letters 114, 090601/1-10 (2015).

概要: 非ガウスノイズに駆動されるランジュバン方程式を、よりミクロなモデルから導出した。これはvan Kampenのシステムサイズ展開の方法を拡張したものである。さらに、解析的に解けるモデルについて、非熱的な環境の情報を推定するための公式を導いた。

*Juan M. R. Parrondo, Jordan M. Horowitz, and Takahiro Sagawa,
Thermodynamics of information,
Nature Physics 11, 131-139 (2015).

概要: 情報熱力学の近年の発展についてのレビューを行った。とくに、近年はじめて実現されたマクスウェルのデーモンの実験についてのレビューを行い、また近年整備された情報熱力学の一般的な理論についての包括的な解説も行った。

*Naoto Shiraishi and Takahiro Sagawa,
Fluctuation theorem for partially masked nonequilibrium dynamics,
Physical Review E 91, 012130/1-7 (2015).

概要: 部分的な遷移しか観測できないようなマルコフ過程について、観測可能な遷移だけに対応した「部分エントロピー生成」の概念を導入し、それに対応する新しいゆらぎの定理を導出した。その特別な場合として、自律的なマクスウェルのデーモンが満たすゆらぎの定理が明らかになった。

*Tomonori Arakawa, Junichi Shiogai, Mariusz Ciorga, Martin Utz, Dieter Schuh, Makoto Kohda, Junsaku Nitta, Dominique Bougeard, Dieter Weiss, Teruo Ono, and Kensuke Kobayashi,
Shot noise induced by nonequilibrium spin accumulation,
Physical Review Letters 114, 016601/1-5 (2015).

概要: スピン流は電流に替わる新たな物理量として注目されており、近年、その生成・検出手法が盛んに研究されている。我々は、強磁性半導体(Ga,Mn)Asと非磁性半導体GaAsからなるトンネル接合にスピン流を印加し、電流ゆらぎ測定を行った。トンネル接合に流れるスピン流と電流を独立に制御することで、ショット雑音に含まれる電流とスピン流の寄与を分離して評価することによって、スピン流の絶対値が求まると同時に、ショット雑音とスピン流の比例関係を実証した。 【Phys. Rev. Lett.誌「Editors' Suggestion」(編集部による注目論文)に選出。】

2014

*Takahiro Tanaka, Tomonori Arakawa, Masahiro Maeda, Kensuke Kobayashi, Yoshitaka Nishihara, Teruo Ono, Takayuki Nozaki, Akio Fukushima, and Shinji Yuasa,
Leak current estimated from the shot noise in magnetic tunneling junctions,
Applied Physics Letters 105, 042405/1-4 (2014).

概要: 我々はMgOの膜厚を系統的に変化させたトンネル磁気抵抗素子におけるショット雑音を測定しファノ因子を見積もった。その結果、膜厚が薄くなるとファノ因子が1から減少し反平行においてより小さくなることを発見した。この現象は、リーク電流によって説明可能であり、ファノ因子からリーク電流の大きさを見積もることに成功した。

Suman G. Das, Abhishek Dhar, Keiji Saito, Christian B. Mendl, Herbert Spohn,
Numerical test of hydrodynamic fluctuation theory in the Fermi-Pasta-Ulam chain,
Physical Review E 90, 12124/1-11 (2014).

概要: 本新学術領域のテーマの一つでもある界面成長のダイナミクスに関係する仕事も行った。ただしここでは本物の界面成長ではなく、一次元熱輸送現象のダイナミクスの中に非自明にカーダー・パリージ・ザンの方程式が現れることを数値的に実証したのである。異常な輸送現象を示すフェルミ−パスタ−ウラム系において大規模数値計算をすることでこの予想を実証した。 【齊藤圭司(計算、論文執筆)】

*Kiyoshi Kanazawa, Takahiro Sagawa, and Hisao Hayakawa,
Energy pumping in electrical circuits under avalanche noise,
Physical Review E 90, 012115/1-8 (2014).

概要: 非熱的な環境下で非ガウスノイズに駆動される電気回路を外部から駆動したときに、取り出せるエネルギーについて議論した。ここで、サイクルで取り出せるエネルギーが正になりうることが、熱的な環境と大きな違いである。とくに、そのようなエネルギーがベリー位相として理解できることを示した。

*Jordan M. Horowitz and Takahiro Sagawa,
Equivalent Definitions of the Quantum Nonadiabatic Entropy Production,
Journal of Statistical Physics 156, 55-65 (2014).

概要: 非平衡定常系の熱力学において重要な概念である過剰エントロピー生成は、量子系に拡張する際にこれまで二つの定義が存在した。一方は量子軌跡を用いるもの、他方は相対エントロピーを用いるものである。この論文で我々は、両者が等価であることを証明した。

*Kensaku Chida, Tokuro Hata, Tomonori Arakawa, Sadashige Matsuo, Yoshitaka Nishihara, Takahiro Tanaka, Teruo Ono, and Kensuke Kobayashi,
Avalanche electron bunching in a Corbino disk in the quantum Hall effect breakdown regime,
Physical Review B 89, 235318/1-4 (2014).

概要: 量子ホール状態にあるコルビノ型円盤にて電流雑音測定を行い、量子ホール効果ブレークダウンに伴う電流雑音の増大を観測した。観測された電流雑音スペクトルは白色で、ファノ因子を見積もると1を上回った。これはコルビノ型円盤の中で雪崩的電子散乱が起こったことを意味する。

*Jonne V. Koski, Ville F. Maisi, Takahiro Sagawa, and Jukka P. Pekola,
Experimental Observation of the Role of Mutual Information in the Nonequilibrium Dynamics of a Maxwell Demon,
Physical Review Letters 113, 030601/1-5 (2014).

概要: 我々はフィードバック制御された系の仕事に関する一般化Jarzynski等式を実験的に検証した。フィードバック制御は単一電子箱にたいしてなされた。これはオリジナルのシラード・エンジンのアナロジーである。一般化Jarzynski等式においては、相互情報量と熱力学的仕事が対等に扱われている。我々の実験は、熱力学的不可逆過程における相互情報量の役割を検証した初めてのものである。

*Kyogo Kawaguchi, Shin-ichi Sasa, and Takahiro Sagawa,
Nonequilibrium Dissipation-free Transport in F1-ATPase and the Thermodynamic Role of Asymmetric Allosterism,
Biophysical Journal 106, 2450–2457 (2014).

概要: 可逆分子モーターであるF1-ATPaseについて、内部散逸がないという実験結果を説明する新しい理論モデルを提案した。これはF1の内部構造とアロステリック機構について示唆を与えるものであり、近い将来実験によって検証されることが期待される。 【佐々真一(議論と数値実験を行い、共同で論文を執筆した)】

*Kenji Tanabe, Ryo Matsumoto, Jun-ichiro Ohe, Shuichi Murakami, Takahiro Moriyama, Daichi Chiba, Kensuke Kobayashi, and Teruo Ono,
Real-time observation of Snell’s law for spin waves in a thin ferromagnetic film,
Applied Physics Express 7, 053001/1-4 (2014).

概要: 膜厚がステップ状に変化する強磁性細線中を伝播するスピン波を実時間測定した。光の伝播と媒質の屈折率の関係を記述するスネルの法則がスピン波の場合にも成り立つことを初めて実証した。本研究によってスピン波の波数を構造によって制御できることが確認されたことから、「マグノニクス」における新たな応用の可能性が開けることが期待される。

Julian Stark, Kay Brandner, Keiji Saito, and Udo Seifert,
A Classical Nernst Engine,
Physical Review Letters 112, 140601/1-5 (2014).

概要: 熱の流入が電流に変換されるいわゆる熱電効果を考察した。とくに磁場などで時間反転対称性を奪ったとき、熱効率と仕事率がどのような関係にあるかに焦点をあてた。線形応答の解析では、熱力学第2法則はカルノー効率と有限の仕事率の共存を許してしまう。この共存は直感に反するので、自然界には熱力学第2法則よりも強い拘束があることが、すでに予想されていた。このような背景の中、磁場が存在してはじめて生じるネルンスト効果に注目し、電子間に相互作用がない状況下での厳密な熱効率の上限を導いた。 【齊藤圭司(テーマの提案、計算)、Editors' Suggestion に選ばれた。】

*Takahiro Sagawa,
Thermodynamic and Logical Reversibilities Revisited,
Journal of Statistical Mechanics, 1-33 (2014).

概要: 熱力学的可逆性と論理的可逆性の概念は、情報と熱力学を結びつける鍵となるものであると考えられてきた。この論文では、両者の関係についての従来の混乱を整理した。さらに、情報熱力学についての包括的な理論体系についてレビューした。

2013

*Takahiro Sagawa and Masahito Ueda,
Role of mutual information in entropy production under information exchanges,
New Journal of Physics 15, 125012/1-23 (2013).

概要: 測定とフィードバックをはじめとする情報処理の熱力学について、一般的な理論体系を構築した。とくに、これまでの論文では明確にしていなかったメモリの構造などの点も注意深く議論し、情報処理の際のエントロピー生成の概念を明確にした。

*Jung Jun Park, Kang-Hwan Kim, Takahiro Sagawa, and Sang Wook Kim,
Heat Engine Driven by Purely Quantum Information,
Physical Review Letters 111, 230402/1-5 (2013).

概要: 量子ディスコートと呼ばれる量子情報量を使って、仕事を取り出すことができる熱機関の理論的提案を、沙川らが行った。これまでも量子ディスコードと熱機関の関係は議論されていたが、本研究は、統計力学に基づいた厳密な表式を得て、かつ具体的なモデルを提案した初めてのものである。

*Keiji Saito and Takeo Kato,
Kondo signature in heat transfer via a local two-state system,
Physical Review Letters 111, 214301/1-4 (2013).

概要: 2準位系を介して量子的な熱が流れる場合を研究した。特に近藤効果が生じる低温領域に注目する。形式的に厳密な熱伝導度の表式を導出しそれを線形応答領域で解析した。その結果熱の流れは、近藤温度より高温か低温かで振る舞いが区別されることが分かった。それらの具体的な表式も導出した。

*Tatsuro Yuge, Takahiro Sagawa, Ayumu Sugita, and Hisao Hayakawa,
Geometrical Excess Entropy Production in Nonequilibrium Quantum Systems,
Journal of Statistical Physics 153, 412-441 (2013).

概要: 量子系を外部から周期的に操作した時に、ベリー位相に類似の効果で非平衡カレントが発生することが知られている。沙川らはこれを非平衡定常熱力学に応用し、量子系における非平衡エントロピーの幾何学的な表式を得た。

Sosuke Ito and Takahiro Sagawa,
Information Thermodynamics on Causal Networks,
Physical Review Letters 111, 180603/1-6 (2013).

概要: 複数の非平衡系が複雑に相互作用して情報交換をしているプロセスについて、ゆらぎの定理と熱力学第二法則の一般化を導出した。このような状況を特徴づけるためにベイジアンネットワークと呼ばれる概念を用いた。そして、その一般化においてはtransfer entropyと呼ばれる情報の流れを表す量が重要な役割を果たすことを明らかにした。

*Sang Wook Kim, Kang-Hwan Kim, Takahiro Sagawa, Simone De Liberato, and Masahito Ueda,
Kim et al. Reply:,
Physical Review Letters 111, 188902/1 (2013).

概要: 量子シラードエンジンから取り出せる仕事量について、我々のかつての研究に対するPleschらの批判が妥当でないことを示した。とくに、我々のプロトコルにおいては、熱力学第二法則の上限すべてに対応する仕事を取り出すことはできないが、これは物理的に自然であることを示した。

*Sadashige Matsuo, Kensaku Chida, Daichi Chiba, Teruo Ono, Keith Slevin, Kensuke Kobayashi, Tomi Ohtsuki, Cui-Zu Chang, Ke He, Xu-Cun Ma, and Qi-Kun Xue,
Experimental Proof of Universal Conductance Fluctuation in Quasi-1D Epitaxial Bi2Se3 Wires,
Physical Review B 88, 155438/1-8 (2013).

概要: トポロジカル絶縁体の母体物質であるBi2Se3を量子細線に加工した試料を用いて、伝導度ゆらぎをプローブとすることによって量子コヒーレントな伝導を研究した。細線長さを長くしていくと、伝導度ゆらぎが増大して行くことを見いだした。この様子は、コヒーレンス長さ、熱拡散長、細線長さに良くスケールし、普遍的伝導ゆらぎの理論に合致する振る舞いであった。この研究は、普遍的伝導度ゆらぎの理論を、スピン軌道相互作用が強い系において定量的に検証した初めての例となっている。

*Tomonori Arakawa, Yoshitaka Nishihara, Masahiro Maeda, Shota Norimoto, and Kensuke Kobayashi,
Cryogenic amplifier for shot noise measurement at 20 mK,
Applied Physics Letters 103, 172104/1-4 (2013).

概要: 20mKという極低温下におけるメゾスコピック伝導体におけるショット雑音測定システムを構築したので報告する。高電子移動度トランジスタを用いた低温動作可能な増幅器を自作することにより、20mKにおける精度が10^-29 A^2/Hzという高精度の電流ゆらぎの測定に成功した。

*Jonne V. Koski, Takahiro Sagawa, O-P. Saira, Y. Yoon, A. Kutvonen, P. Solinas, M. Möttönen, T. Ala-Nissila, and Jukka P. Pekola,
Distribution of entropy production in a single-electron box,
Nature Physics 9, 644-648 (2013).

概要: フィンランドのグループとの共同研究により、異なる温度の二つの熱浴に接する単一電子箱において、ゆらぎの定理の実験的検証を行った。その際、観測される軌道から見積もれる粗視化されたエントロピー生成と、発熱から定義される通常のエントロピー生成の関係を詳しく解析した。

*Jordan M. Horowitz, Takahiro Sagawa, and Juan M. R. Parrondo,
Imitating Chemical Motors with Optimal Information Motors,
Physical Review Letters 111, 010602/1-5 (2013).

概要: 化学モーターと同じ動きをする可逆な情報モーターのモデルを提案した。両者のダイナミクスは同じであるが、エントロピー生成が大きく異なる振る舞いをすることを見出した。とくに、情報モーターは有限速度で動いているときにエントロピー生成が最小値を取ることを見出した。

*Kiyoshi Kanazawa, Takahiro Sagawa, and Hisao Hayakawa,
Heat conduction induced by non-Gaussian athermal fluctuations,
Physical Review E 87, 052124/1-10 (2013).

概要: 非ガウスノイズによって駆動される非熱的な環境が二つブラウン粒子を介して接触しているとき、ノイズの非ガウス性によって駆動されるエネルギー流があることを発見した。このエネルギー流の大きさはノイズの分散だけでは特徴づけることができず、その意味で熱力学第ゼロ法則が成立していないことを明らかにした。