(

A01計画班

論文等 | 原著論文

2017

Tomoyuki Mano, *Jean-Baptiste Delfau, Junichiro Iwasawa, and Masaki Sano,
Optimal run-and-tumble based transportation of a Janus particle with active steering,
Proceedings of the National Academy of Sciences 114, in press.

概要: 熱ゆらぎにさらされるミクロンサイズの物体を制御することは人工物にせよ微生物にせよ難しい。近年、小さな自己駆動粒子の製作が可能となったが、微粒子を目的の方向に向かわせることは、ランダムな回転拡散との競合となる。我々は、AC電界下で自己駆動するJanus粒子を用い、バクテリアのrun-and-tumble行動に倣って、粒子の向きを遠隔操作するアルゴリズムを考案した。さらに、理論的に最適な戦略を求め、微生物の遊泳行動との比較を行った。その結果、ボルボックス程度(約500ミクロン)の大きさの場合は、運動の向きを常に制御しつつ目的に向かって泳ぐこと(active steering)が最適であるのに対して、バクテリア程度(約2ミクロン)の大きさでは、向きを正確に制御するよりは、角度が目的を大きくずれた場合だけ、方向転換するrun-and tumble戦略が最適であることが分かった。

Kazumasa A. Takeuchi,
1/fα power spectrum in the Kardar-Parisi-Zhang universality class,
Journal of Physics A: Mathematical and Theoretical 50, 264006/1-17 (2017).

概要: (1+1)次元 Kardar-Parisi-Zhang (KPZ) 普遍クラスに属する界面ゆらぎのパワースペクトルを実験的、および数値的に測定し、いわゆる1/f型スペクトルを観測した。得られたパワースペクトルに対して臨界指数を測定し、それが近年提唱されたエイジングWiener-Khinchin定理で説明できることを示した。さらに、同定理により、KPZクラスにおける1/f型パワースペクトルはKPZ界面が漸近的に従うBaik-Rains普遍分布の情報を含んでいることが判明し、実験および数値計算のデータとよく一致する結果を得た。

*Yuliang Jin, Hajime Yoshino,
Exploring the complex free energy landscape of the simplest glass by rheology,
Nature Communications 8, 14935 (2017).

概要: ガラスは乱れていることを除くと結晶と同じように固体である。そこで従来は、ガラスにおいても結晶と同じく、少なくとも十分低温・高密度では「エネルギー極小状態+調和的な振動」という描像が基本的に成り立つと考えられてきた。ところが最近、ガラス相の奥深くにおいてガードナー転移と呼ばれる連続レプリカ対称性の破れが起こり、これによって階層的なエネルギーランドスケープが出現することが高次元極限における剛体球系のレプリカ液体論によって示された(P.Charbonneau,et al. (2014))。我々はこの階層構造がレオロジー、特に剛性率に明瞭に反映されることをレプリカ液体論の枠組みの中で示していた (H. Yoshino and F. Zamponi,(2014))。 今回、この現象を3次元剛体球系における分子動力学シミュレーションで明瞭に捉えることに成功した。密度の増大によってガードナー転移が起こると、圧縮とシアが非可換になりZFC/FC剛性率に差異が生じ、異なる圧力依存性を示す。これは理論的な予測と合致している。

*Jacopo De Nardis, Pierre Le Doussal, and Kazumasa A. Takeuchi,
Memory and Universality in Interface Growth,
Physical Review Letters 118, 125701/1-5 (2017).

概要: 界面成長等の普遍的な非平衡ゆらぎを記述するKardar-Parisi-Zhang (KPZ) クラスは、1次元では分布関数や空間相関が厳密に求められていたものの、時間相関は未解決問題として残されていた。本論文では、時間相関について実験と比較可能な理論的表式を初めて導出し、それが実験や数値計算と精度よく合致することを発見した。また、KPZクラス以外の非平衡普遍クラスでも存在しうる特徴的な記憶効果についても知見を得た。

*Masahiko Ueda, Shin-ichi Sasa,
Replica symmetry breaking in trajectory space for the trap model,
Journal of Physics A: Mathematical and Theoretical 50, 125001/1-14 (2017).

概要: 軌道の統計力学の観点から一次元トラップモデルにおける局在化を研究する。共通したランダムポテンシャル上の2つの粒子の軌道間の重なりを数値的に調べることにより、経路アンサンブルに相転移があることを見出す。低温相は軌道空間におけるレプリカ対称性の破れとして特徴づけられる。 

*Masato Itami, Shin-ichi Sasa,
Universal Form of Stochastic Evolution for Slow Variables in Equilibrium Systems,
Journal of Statistical Physics 167, 46-63 (2017).

概要: 平衡系における完全な遅い変数の組に対する非線形、乗法的ランジュバン方程式が、時間スケールの分離に基づいて一般的に導出される。得られた方程式の形は普遍的であり、グリーンによって得られるものと同等である。非線形摩擦のあるブラウン運動に対する方程式は、その一般的な結果の一例であることが分かる。我々の導出の鍵は、経路積分形式と対応するランジュバン式で異なる離散化スキームを使用することにある。そして、そのことにより、これまでの研究で見かけ上異なっていた経路積分表現の一貫した理解も与える。

*Daiki Nishiguchi, Ken H. Nagai, Hugues Chate, and Masaki Sano,
Long-range nematic order and anomalous fluctuations in suspensions of swimming filamentous bacteria,
Physical Review E 95, 020601(R) /1-6 (2017).

概要: 分裂とタンブリングを阻害した、長いフィラメント状のバクテリアを用いて、準2次元的に拘束された薄い容器内でネマチックな集団運動を観察した。密度を上げるとバクテリアは、弱いながらも衝突によりネマチックに向きを揃える効果を示し、空間の広い領域でネマチックオーダーパラメターが減衰せず、長距離の方向秩序と呼べる状態を実験系で始めて観測することに成功した。この長距離秩序状態で粒子数の密度ゆらぎを測定すると、Giant Number Fluctuationと呼べる振る舞いが観測され、種々の相関関数の振る舞いの無矛盾な結果が得られた。 【H26-27年度の公募班メンバーである永井健氏との共同研究であり、Chate氏との国際共同研究でもある。】

Harukuni Ikeda, Kunimasa Miyazaki and *Giulio Biroli,
The Fredrickson-Anderson model with random pinning on Bethe lattices and its MCT transitions,
EPL 116, 56004/1-8 (2017).

概要: ガラス転移を動的転移とみなす数理模型である動的拘束模型の動的不均一性を理論的に解析した。ベーテ格子上におけるFA模型の多体相関関数を半解析的に計算し、その数値解析の結果、通常のモード結合理論が予想する動的相関を観測した。特に不純物を導入したモデルに対しては、いわゆる高次特異点が現れる。これは最近の不均一モード結合理論の結果と整合している。

2016

Gioia Carinci, Cristiana Giardina, Frank Redig, Tomohiro Sasamoto,
A generalized asymmetric exclusion process with Uq(sl2) stochastic duality,
Probability Theory and Related Fields 166(3), 887-933 (2016).

概要: 1次元非対称排他過程(ASEP)のカレント等の性質を調べる際、自己双対性が有用であるが、カレントのある非平衡確率モデルにおいて、自己双対性がどのように現れるかはよくわかっていない。本論文においては、量子群に関係する自己双対性を持つ確率モデルを系統的に構成する方法を示し、例として、Uq(sl2)の高スピン表現に対応する確率モデルを構成した。

*Harukuni Ikeda, Kunimasa Miyazaki, and *Atsushi Ikeda,
A note on the replica liquid theory of binary mixtures,
Journal of Chemical Physics 145, 216101/1-2 (2016).

概要: ガラス転移の記述するレプリカ理論では、多成分系の場合には残留エントロピーの定式化に、内部矛盾が存在することが指摘されていた。本論文では、理論を森田ー広池形式で書き換えることで物理的に整合性がある結果となることを示した。 【宮崎州正(議論と論文執筆)】

*Shumpei Yamamoto, Sosuke Ito, Naoto Shiraishi, and Takahiro Sagawa,
Linear irreversible thermodynamics and Onsager reciprocity for information-driven engines,
Phyical Review E 94, 052121/1-11 (2016).

概要: 我々は線形非平衡熱力学の枠組みを、広いクラスの自律的情報処理について定式化した。とくに、オンサーガ相反関係が「情報流」「情報アフィニティ」に対しても成立することを証明した。応用として、最大パワー(仕事率)のときの情報熱力学効率の普遍的な上限を導いた。この結果は線形非平衡熱力学においても情報流が重要な役割を果たすことを示している。

Naoto Shiraishi, Keiji Saito and Hal Tasaki,
Universal trade-off relation between power and efficiency for heat engines,
Physical Review Letters 117, 190601/1-5 (2016).

概要: 齊藤は、以前、オンサーガー行列を使った形式的な議論から、時間反転対称性を破る系ではカルノー効率と有限仕事率の共存が許される可能性があることを指摘した。それ以来、熱効率と仕事率に関するトレードオフ関係に関して多くの研究が様々な角度からなされた。今回齊藤らは、マルコフなダイナミクスにおいて、ほぼ全ての熱機関に当てはまる厳密なトレードオフ関係式を導出することに成功した[1]。この関係式によれば、時間反転対称性の有る無しに関わらずカルノー効率は仕事率の消失を意味する。これは、熱力学において時間軸での厳密な原理が与えられたことに相当する。

Takuma Akimoto, Eli Barkai, Keiji Saito,
Universal Fluctuations of Single-Particle Diffusivity in Quenched Environment,
Physical Review Letters 117, 180602 (2016).

概要: 細胞内のタンパク質の拡散などが近年観測され始め、動的な挙動が生体内でどのような役目を果たしているかが分かってきている。このような実験で分かってきていることは、細胞内ではポテンシャルが乱れおり、タンパク質の拡散が非常に遅いことである。このような状況を念頭に置き、クエンチされたランダムポテンシャル系における拡散現象を厳密に解析した。ポテンシャルの深さの分布をベキ分布にした場合、指数に応じて拡散が変わることを厳密に示した。また、拡散係数が一意的に決まらない領域が存在すること、そのときの拡散係数の分布関数が、逆レビー分布で与えられることを厳密に示した。

Ryoji Miyazaki, Takeshi Kawasaki, and *Kunimasa Miyazaki,
Cluster Glass Transition of Ultrasoft-Potential Fluids at High Density,
Physical Review Letterrs 117, 165701/1-5 (2016).

概要: Ultra-softポテンシャル系と呼ばれる、単距離斥力が有限である粒子系の過冷却液体状態におけるガラス転移の挙動をシミュレーションにより精査した。その結果、粒子同士が重なりクラスターを生成し、そのクラスターがガラス化する新規ガラス現象を発見した。さらに密度のより多様なガラス相が現れ、一種のポリアモルフィズムが存在することが昭館になった。

Daijyu Nakayama, Hajime Yoshino, Francesco Zamponi,
Protocol-dependent shear modulus of amorphous solids,
Journal of Statistical Mechanics: Theory and Experiment 10, 104001 (2016).

概要: ソフトコア粒子系のジャミング相において、シアと圧縮が非可換になることをMDシミュレーションによって見出した。これは無限大次元における理論解析の予想する、複雑な自由エネルギーランドスケープの存在を強く示唆する結果である。 【吉野 元 (研究計画、議論と論文執筆)】

Yoshimichi Teratani, Rui Sakano, Ryo Fujiwara, Tokuro Hata, Tomonori Arakawa, Meydi Ferrier, Kensuke Kobayashi and Akira Oguri,
Field-enhanced Kondo correlations in a half-filling nanotube dot: evolution of an SU(n) Fermi-liquid fixed point,
Journal of the Physical Society of Japan 85, 094718/1-18 (2016).

概要: カーボン・ナノチューブから作られる量子ドットは4重縮退した一粒子準位を持っているため、様々な近藤状態が発現する舞台となっている。我々は、2電子フィリング(ハーフフィリング)において、磁場中でSU(2)近藤状態が生じることを理論的に研究したので報告する。

Yoshiyuki Chiba and *Naoko Nakagawa,
Numerical determination of entropy associated with excess heat in steady-state thermodynamics,
Physical Review E 94, 022115/1-10 (2016).

概要: 正常な熱伝導を示す一次元鎖の数値実験により、過剰熱と結びつけられた非平衡エントロピーを計測した。平衡状態にある場合の系の熱力学的性質を用いて見積もった局所平衡エントロピーとか情熱を用いて計測した非平衡エントロピーは非常に良い一致を示した。この結果を受けて、局所平衡の議論を利用しながらエントロピーの示量性と相加性を吟味したところ、示量性と相加性はそれぞれ成立するが、両者の意味が異なることが明らかとなった。

Shou-Wen Wang, Kyogo Kawaguchi, Shin-ichi Sasa, and Lei-Han Tang,
Entropy Production of Nanosystems with Time Scale Separation,
Physical Review Letters 117, 070601/1-070601-5 (2016).

概要: 時間スケールが大きく離れた自由度がある場合、遅い自由度だけに着目して系を記述するのは常套手段である。ところが、遅い変数を観測しているとあたかも平衡状態にあるかのように振る舞う非平衡系があり、そのような場合、非平衡状態の特徴であるエントロピー生成が隠れてしまう。この論文では、遅い変数のゆらぎと応答の情報から、直接観測できない速い変数が担う隠れたエントロピー生成を評価する方法を提案する。 【日中共同論文】

*Kazumasa A. Takeuchi and Takuma Akimoto,
Characteristic Sign Renewals of Kardar-Parisi-Zhang Fluctuations,
Journal of Statistical Physics 164, 1167-1182 (2016).

概要: (1+1)次元 Kardar-Parisi-Zhang (KPZ)クラスの揺らぎの符号の解析により、KPZクラスの一部性質が、更新過程と呼ばれる、エイジングやエルゴード性の破れの研究で用いられる単純な確率過程と関係することを数値的・実験的に示した。特に、KPZと更新過程は全く異なる系であるにも拘わらず、再帰時間やpersistence確率などの性質が両者で定量的に一致することが判明した。また、KPZ揺らぎの符号の時間平均値が、弱いエルゴード性の破れと呼ばれる性質を示すこともわかり、更新過程とも異なる、KPZ特有の分布関数が見出された。さらに、理論的にほぼ未解明のKPZ時間相関における円形界面と平面界面の違いについても新たな知見が得られた。 【竹内一将、研究計画の作成(共同)、データ解析、数値計算(分担)、論文執筆(共同)】

Johannes Stigloher, Martin Decker, Helmut S. Körner, Kenji Tanabe, Takahiro Moriyama, Takuya Taniguchi, Hiroshi Hata, Marco Madami, Gianluca Gubbiotti, Kensuke Kobayashi, Teruo Ono, and Christian H. Back,
Snell’s Law for Spin Waves,
Physical Review Letters 117, 037204/1-4 (2016).

概要: 入射波、反射波、屈折波をイメージングすることによって、パーマロイ薄膜におけるスピン波に対するスネルの法則を実験的に観測したことを報告する。我々は、異なる分散関係を持つ二つの媒質の間に設けられた段差を利用した。我々の発見は、スピン波を利用したマグのニクス等への応用が期待される。

*Xiong Ding, Hugues Chate, Predrag Cvitanovic, Evangelos Siminos, and Kazumasa A. Takeuchi,
Estimating the Dimension of an Inertial Manifold from Unstable Periodic Orbits,
Physical Review Letters 117, 024101/1-5 (2016).

概要: 本論文では、散逸を伴う時空カオス力学系を記述するとされる有限次元の慣性多様体が、不安定周期軌道だけを用いて構成できることを数値的に示した。具体例として、蔵本-Sivashinsky方程式を用い、共変Lyapunovベクトルの双極性を用いて推定した慣性多様体次元と、今回不安定周期軌道を用いて推定した慣性多様体次元が一致することが判明した。 【竹内一将、研究計画の作成(共同)、データ解析(一部)、議論(共同)、論文執筆(共同)】

Misaki Ozawa, Kang Kim, *Kunimasa Miyazaki,
Tuning Pairwise Potential Can Control the Fragility of Glass-Forming Liquids: From Tetrahedral Network to Isotropic Soft Sphere Models,
Journal of Statistical Mechanics: Theory and Experiment None, 074002/1-21 (2016).

概要: ガラス転移における重要な概念であるフラジリティを統一的に理解するために、CPモデルというシリカガラスのモデルを拡張し、ソフトコアとシリカの双方をシームレスにつなぐポテンシャルを考案し、そのダイナミクスをシミュレーションにより解析した。フラジリティ、比熱、Stokes-Einstein則の破れなどを解析し、それらの観測量間の相関を明らかにした。

Keiji Saito and Abhishek Dhar,
Waiting for rare entropic fluctuations,
Europhys Letters 114, 50004/1-6 (2016).

概要: 完全計数統計などでは、一定の観測時間内にどれくらいのエントロピーが発生するかを考える。このような観測は、メゾスケールの電気伝導実験では一定時間に電流を測ることでなされてきており、電流ゆらぎの定量的理解につながっている。これまでの計数統計を踏まえ、逆の過程を考えた。つまり、目標となるエントロピーを決め、それに至るまでの時間の分布を考えるのである。これはつまるところエントロピーに関するFirst Passage Time distribution に相当する。幾つかの例題を通して、普遍的な分布を求めた。

*J.-B. Delfau, John J. Molina and M. Sano,
Collective behavior of strongly confined suspensions of squirmers,
Europhysics Letters 114, 24001/1-5 (2016).

概要: 自己駆動粒子の低レイノルズ数流体中での集団運動の可能性を明らかにするため、Squirmerと呼ばれる球形粒子で表面流を仮定したモデルを用い、集団運動を乱す原因である流体相互作用を抑えるため、高さ方向に強く拘束された準2次元的境界条件の下で数値シミュレーションを行った。その結果、遠距離での流体相互作用は急激に減衰するものの、近距離での流体相互作用も重要となり、Neutral Swimmerと呼ばれる場合に集団運動が観測されたが、PusherやPullerの場合は集団運動は極めて形成されにくいことを明らかにした。 【公募班の山本量一グループのメンバーであるJohn Molina氏との共同研究である。】

Tatsuya Muro, Yoshitaka Nishihara, Shota Norimoto, Meydi Ferrier, Tomonori Arakawa, *Kensuke Kobayashi, Thomas Ihn, Clemens Rösler, Klaus Ensslin, Christian Reichl, and Werner Wegscheider,
Finite shot noise and electron heating at quantized conductance in high-mobility quantum point contacts,
Physical Review B 93, 195411/1-7 (2016).

概要: 量子ポイントコンタクトにおける精密なショット雑音測定を報告する。極めて清浄な系であることと、非常に高精度な雑音測定が可能であるという二つの利点を活かして、ファノ因子を0.01の精度で精密に決定することができた。ショット雑音が理論予想よりも少しだけ増大するという現象を見出し、それが磁場印加によって消失することを議論した。量子ホール効果状態では、完全に消失することw確認した。これらの現象は、量子ポイントコンタクト周囲における電子加熱であるとして説明された。

Shin-ichi Sasa, Yuki Yokokura,
Thermodynamic entropy as a Noether invariant,
Physical Review Letters 116, 140601/1-140601/6 (2016).

概要: 時間依存パラメータをもつ古典粒子多体系を解析し、熱力学エントロピーがネーター不変量として一意に特徴づけられることを示した。我々が見出した対称性は、時間に関する非一様推進であり、逆温度とプランク定数に比例するように時間目盛りを変更するときの不変性である。また、作用の定義域を「熱力学と整合する軌道」に制限する必要がある。【Editors’ suggestion に選ばれた。】

Daniele Coslovich, *Atsushi Ikeda, Kunimasa Miyazaki,
Mean-field dynamic criticality and geometric transition in the Gaussian core model,
Physical Review E 93, 042602/1-8 (2016).

概要: ガウスコアモデル(GCM)と呼ばれる柔らかい相互作用を持つ液体のガラス転移を大きぼシミュレーションにより解析した。この系は著者らにより現存する最も平均場模型に近いガラスモデルであることが明らかになっているが、本研究ではさらに動的不均一性を調べることでその検証を行った。実際に4体相関関数に現れるスケール則はMCTの予想と一致しているほか、振動モードの局在長も通常のガラスモデルよりも長いことを示唆する結果を得た。

*Takao Ohta, Mitsusuke Tarama and Masaki Sano,
Simple model of cell crawling,
Physica D 318, 3-11 (2016).

概要: 細胞運動の新しい理論モデルを提案した。2次元で細胞の形を変形させる力テンソル、変形が生み出す重心の運動を対称性からモデル化し、細胞が発生する応力リミットサイクル振動する場合や興奮性でノイズによりコヒーレントレゾナンス現象で振動する場合などについて計算とシミュレーションを行った論文。

*Aki Kutvonen, Takahiro Sagawa, and Tapio Ala-Nissila,
Thermodynamics of information exchange between two coupled quantum dots,
Phyical Review E 93, 032147/1-7 (2016).

概要: 二つの量子ドットを用いて、測定の熱力学を定量的に解析できるモデルを提案した。このモデルでは、外部パラメータの操作によって測定とその後のフィードバックが分離して行われる。これはシラード・エンジンに対応した設定になっている。我々はこのモデルにおいて、単一軌道のレベルでのエントロピー生成について解析し、とくに「積分型ゆらぎの定理」をエントロピー生成およびその粗視化に対して導いた。 

Shunpei Takeshita, Sadashige Matsuo, Takahiro Tanaka, Shu Nakaharai, Kazuhito Tsukagoshi, Takahiro Moriyama, Teruo Ono, Tomonori Arakawa, and Kensuke Kobayashi,
Anomalous behavior of 1/f noise in graphene near the charge neutrality point,
Applied Physics Letters 108, 103106/1-4 (2016).

概要: 単層グラフェン素子における電流雑音について、平衡状態から極端な非平衡状態まで調査した。その結果、1/f雑音のバイアス電圧依存性に異常な振る舞いを見出した。具体的には、電荷中性点近傍では、高バイアスではフーゲ則が成り立たないが、低バイアスでは成り立つ、というものである。この原因として、電子ホールパドルのでピニングが関わっている可能性を提案した。

*John J. Molina, Kotaro Otomura, Hayato Shiba, Hideki Kobayashi, Masaki Sano, and Ryoichi Yamamoto,
Rheological evaluation of colloidal dispersions using the smoothed profile method: formulation and applications,
Journal of Fluid Mechanics 792, 590-619 (2016).

概要: コロイド分散系のレオロジー特性を、粒子間の流体力学相互作用を直接ナビエストークス方程式の数値シミュレーションで評価するための方法論の大幅な拡 張を行った。具体的には、均一なせん断流を実現する Lees-Edwards 周期境界条件の下で、 粒子分散系のレオロジー特性を評価するための定式化を行った。この拡張により、系の粘性を調べる際に一般的な定常(DC)せん断流だけではなく、粘弾性を調べる際に必要となる振動せん断流をも実現することが可能となったのみならず、系の全応力や任意の場所に おける局所応力など、レオロジー評価に必要な全ての物理量を直接数値計算で求めることが 可能となった。

*Masaki Sano and Keiichi Tamai,
A Universal Transition to Turbulence in Channel Flow,
Nature Physics 12, 249-253 (2016).

概要: 層流・乱流転移がいつどのように起こり、そこにどのような法則があるかは、レイノルズ以来130年以上にわたる未解決の問題である。カオスの発見はこの問題に関して教科書を書き換えるほどのインパクトを与えたが、あくまでも時間的な乱れに関してであり、パイプ流やチェネル流などのシア流の層流・乱流転移に関しては長年の努力も関わらず未解決のままであった。我々は、これまでで最大のチャネル流の実験を行い、チャネル流における臨界現象的振る舞いを見いだした。チャネルの入り口での境界条件を乱流にして注入した場合、レイノルズ数が臨界より低ければ乱流は下流に伝播する過程で減衰してしまうが、臨界を超えると乱流状態が全体に広がる。また、臨界点近傍では乱流は時空間欠的になり、オーダーパラメーターのゼロからの立ち上がりや相関長の発散といった現象が観測される。この測定で得られた3つの独立菜臨界指数は、(2+1)次元のDirected Percolationと一致した。

Tomotaka Kuwahara, Takashi Mori, and Keiji Saito,
Floquet-Magnus Theory and Generic Transient Dynamics in Periodically Driven Many-Body Quantum Systems,
Annals of Physics, 96-124 (2016).

概要: 近年量子孤立系での熱化の問題が大事になってきている。量子孤立系に周期外場をかけるとどのような熱化が起こるだろうか?量子孤立系周期外場をかけたとき、一般に保存量がなくなり、系の状態はすべての状態を経巡るであろう。このような状態は温度が無限大の状況に相当する。この考え方はいわゆるEigenstate Themalization を周期外場に拡張したFloquet eigenstate thermalization と言われる。そこで、疑問は温度無限大に移行する熱化のタイムスケールはどうなるのか?という問題である。この論文ではこの問題を考えるための基礎理論を構築した。とくにフローケマグナス展開に着目して、一般論を構築した。 【齊藤圭司(議論、論文執筆)】

Christian Van den Broeck, Shin-ichi Sasa, Udo Seifert,
Focus on stochastic thermodynamics,
New Journal of Physics 18, 020401-020403 (2016).

概要: 確率的熱力学の特集号をN. J. Phys. で企画した。この論文はその巻頭言に相当し、採択された論文を紹介しつつ、分野の全貌を紹介した。

*Kenji Tanabe, Ryo Matsumoto, Jun-Ichiro Ohe, Shuichi Murakami, Takahiro Moriyama, Daichi Chiba, Kensuke Kobayashi and Teruo Ono,
Observation of magnon Hall-like effect for sample-edge scattering in unsaturated YIG,
physica status solidi (b) 253, 783-787 (2016).

概要: 我々はイットリウム鉄ガーネット結晶の試料端においてマグノンの散乱によって起因するマグノンホール効果に類似した現象を観測した。本研究は、室温において赤外線温度測定装置を用いて行われた実験である。磁化が飽和していない状態においてマグノンが試料端に打ち込まれた時、横方向に大きな温度勾配を観測した。これは、マグノンホール効果による可能性がある。意外なことに、我々は、この効果が、ベリー曲率によるマグノンホール効果が理論的に予想されている飽和状態の時よりも、飽和していないときの方が大きいことを見出した。

Naoto Shiraishi, Takumi Matsumoto, and Takahiro Sagawa,
Measurement-feedback formalism meets information reservoirs,
New Journal of Physics 18, 013044/1-8 (2016).

概要: これまでの研究では、情報熱力学には2つの異なった定式化が知られていた。ひとつは測定・フィードバックのフォーマリズムで、もう一つは情報浴のフォーマリズムである。本研究では両者が統一的に定式化できることを示し、従来よりも強い第二法則の不等式を導いた。 

*Tokuro Hata, Tomonori Arakawa, Kensaku Chida, Sadashige Matsuo, and Kensuke Kobayashi,
Giant Fano factor and bistability in a Corbino disk in the quantum Hall effect breakdown regime,
Journal of Physics: Condensed Matter 28, 055801/1-7 (2016).

概要: コルビノ円板型の試料において量子ホール効果ブレークダウン現象にともなう雑音測定を行った。サイズの異なる2種類のコルビノ円板型試料を測定することにより、コンタクト間の距離が増大するとファノ因子が増大することを見出したが、これは、ブートストラップ型電子加熱モデルに合致する。ファノ因子の温度依存性の測定も行った。さらに、非線形性が強い領域では、負性抵抗と発振現象を観測した。この現象と、ツェナートンネルとの関わりについて論じた。

2015

Alexei Borodin, Ivan Corwin, Leonid Petrov, Tomohiro Sasamoto,
Spectral theory for interacting particle systems solvable by coordinate Bethe ansatz,
Communications in Mathematical Physics 339(3), 1167-1245 (2015).

概要: KPZ系の解析においては、q-TASEPやq-bosonゼロレンジ過程と呼ばれる離散模型が重要な役割を果たしている。本論文では、その一般化として、q-Hahn多項式の重み関数に関係する離散確率過程模型を導入し、そのカレントの揺らぎのモーメントに関する表式を与えた。

2016

*Meydi Ferrier, Tomonori Arakawa, Tokuro Hata, Ryo Fujiwara, Raphaëlle Delagrange, Raphael Weil, Richard Deblock, Rui Sakano, Akira Oguri, and *Kensuke Kobayashi,
Universality of non-equilibrium fluctuations in strongly correlated quantum liquids,
Nature Physics 12, 230-235 (2015).

概要: 多数の粒子が互いに量子力学的に影響を及ぼしあうとき、粒子一個の性質からは全く想像できないような奇妙な振る舞いを示すことがある。このような現象を量子多体現象と呼び、そのような現象を示す粒子の集団のことを量子液体と呼ぶ 。本研究は、典型的な量子多体現象である近藤効果によって形成される量子液体を用いて行われた。微細加工技術を用いて作製された人工原子中の量子液体における電流ゆらぎを、世界最高水準の測定技術により精密に測定することによって、理論的に予測されてきた非平衡状態にある量子液体の挙動を詳細に明らかにすることに成功した。量子多体現象は、長年にわたって物理学の中心的な課題の一つであるが、極めて高い精度で理論の検証に成功した本成果は、物質の新しい性質・機能を見いだすなど、今後の研究の発展に貢献していくものと期待される。

2015

*Daiki Nishiguchi and Masaki Sano,
Mesoscopic turbulence and local order in Janus particles self-propelling under an ac electric field,
Physical Review E 92, 052309/1-11 (2015).

概要: 自己駆動粒子の高密度な集団によるメソスコピック乱流の発生に関する実験報告。Janus粒子を用いて電気流体力学効果により印可したAC電圧と垂直な面内で極性を持って動き回る自己駆動粒子の相互作用やエネルギースペクトラムを測定した結果、粒子間の流体相互作用による効果がメソスコピック乱流を所持させていることを実験と理論から明らかにした。

Masato Itami and Shin-ichi Sasa,
Derivation of Stokes’ Law from Kirkwood’s Formula and the Green-Kubo Formula via Large Deviation Theory,
Journal of Statistical Physics 161, 532-552 (2015).

概要: ストークス関係式を流体方程式を使わずに微視的に導出する。線形応答理論により、摩擦係数が玉に働く力の時間相関を使って書けることは知られている。この時間相関関数を大偏差理論を使って評価することでバルクの粘性係数と結びつけることが可能となる。

Harukuni Ikeda, *Kunimasa Miyazaki,
Facilitated spin model on Bethe lattice with random pinning,
EPL 112, 16001 (2015).

概要: 我々はベーテ格子上で、Fredrickson-Andersen模型におけるランダムピニングの影響を調べた。我々は、非エルゴード転移点が、ピンされたスピンの密度の増加とともに上昇すること、そして転移点がある臨界点で終端することを示した。この振る舞いは、pスピンガラスで最近示されたものと酷似している。特に終端臨界点付近における特性長の発散は、MCTでいるところのA3特異点のそれと同じものであった。

*Shoichi Toyabe, Masaki Sano,
Nonequilibrium Fluctuations in Biological Strands, Machines, and Cells,
Journal of the Physical Society of Japan 84, 102001/1-17 (2015).

概要: ゆらぎの定理やJarzynski等式など最近の非平衡ゆらぎに関する理論を生物系の実験にどのように適用するかをレビューした招待論文。DNAやRNAなどの一分子力学応答、分子モーターなどの仕事と効率、細胞におけるゆらぎの実験と理論について紹介している。

*Sadashige Matsuo, Shunpei Takeshita, Takahiro Tanaka, Shu Nakaharai, Kazuhito Tsukagoshi, Takahiro Moriyama, Teruo Ono, Kensuke Kobayashi,
Edge mixing dynamics in graphene p–n junctions in the quantum Hall regime,
Nature Communications 6, 8066/1-6 (2015).

概要: 量子ホール状態にあるグラフェンpn接合では、量子ホール状態が完全に混じりあう結果、接合の両側への電子の分配過程の存在が推察されていたが、この電子分配過程を直接的に実証した報告はなかった。我々は、ゲート電極を組み合わせることによりpn接合を形成可能なグラフェン試料を作製し、低温強磁場下において高精度な電流ゆらぎ測定を行った。その結果、量子ホール状態でpn接合のある場合にはショット雑音が発生するのに対し、pn接合のない場合にはショット雑音が発生しないことを明らかにした。また、観測されたショット雑音の大きさが、理論予想とほぼ一致することも実証した。これらの結果は、量子ホール状態にあるpn接合が電子を分配するということを初めて直接的に示した成果であり、グラフェンpn接合で起こる電子分配の微視的特性を初めて定量的に確立したものである。

Tomohiro Sasamoto, Herbert Spohn,
Point-interacting Brownian motions in the KPZ universality class,
Electronic Journal of Probability 20, 1-28 (2015).

概要: KPZクラスに属する相互作用するブラウン運動粒子系を構成し、いくつかの性質を示した。特に、このモデルは自己双対性を持ち、それを利用することで、カレントの分布がTracy-Widom分布となることを議論した。コロイド粒子系でKPZ系を実現する際のモデルとなりうる。

Masahiko Ueda and Shin-ichi Sasa,
Replica symmetry breaking in trajectories of a driven Brownian particle,
Physical Review Letters 115, 080605/1-5 (2015).

概要: ノイズの加わったバーガース方程式(KPZ方程式)によって受動的に駆動されるブラウン粒子を研究する。軌道の集まりについてレプリカ対称性の破れが生じることを示す。この証明の鍵は、この系の修正された境界条件でのパスアンサンブルが向きのある高分子の平衡分布に厳密に一致することである。

Kay Brandner, Keiji Saito, and Udo Seifert ,
Thermodynamics of Micro- and Nano-Systems Driven by Periodic Temperature Variations,
Physical Review X 5, 031019 (2015).

概要: この論文では、ゆらぐ熱環境における熱機関を考えるための線形応答理論の定式化を行った。この定式化によって、マルコフなダイナミクスに従う一般的な系で、効率と仕事率の関係を系統的に探ることができるようになった。その結果、一般にはオンサーガー係数は非対称になる。特に、仕事率の上限を効率の言葉で書くことができ、効率がカルノー効率に到達すると仕事率が消失することがわかる。 【齊藤圭司(研究および論文執筆)】

Misaki Ozawa, *Walter Kob, Atsushi Ikeda, Kunimasa Miyazaki,
Reply to Chakrabarty et al.: Particles move even in ideal glasses,
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 112, E4821-E4822 (2015).

概要: Chakrabartyらは、彼らの緩和ダイナミクスに関するデータが、我々の報告した熱力学データと矛盾していることを指摘した。 彼らの議論によれば、RFOTが正しいとすると、我々が計算した配置エントロピー$S_c$が、定量的に正しくないと主張している。我々はこのレターで、彼らの結論が正しくないことを、自己緩和関数と協同相関関数を計算することにより示した。

Teruhisa S. Komatsu, Naoko Nakagawa, Shin-ichi Sasa, and Hal Tasaki,
Exact equalities and thermodynamic relations for nonequilibrium steady states,
Journal of Statistical Physics 159, 1237-1285 (2015).

概要: 非平衡定常状態間の遷移に関する熱力学操作に関する拡張された熱力学の枠組みを数学的に厳密な形で提示する。

*Sadashige Matsuo, Shu Nakaharai, Katsuyoshi Komatsu, Kazuhito Tsukagoshi, Takahiro Moriyama, Teruo Ono, and Kensuke Kobayashi,
Parity effect of bipolar quantum Hall edge transport around graphene antidots,
Scientific Reports 5, 11723/1-7 (2015).

概要: 物理学では、整数値を取る物理量の偶奇性に依存して、物理現象が質的に全く異なる振る舞いを示すことがある。このような物理量の偶奇性という抽象的な概念に基づいた現象の分類はパリティ効果と呼ばれ、物理現象の理解に極めて重要な役割を果たす。我々は、グラフェン素子上に形成したpn接合における量子ホール端状態の電気伝導について考察し、伝導度の振る舞いが、pn 接合の数が偶数であるか奇数であるかによって決まってしまうこと(=パリティ効果)を理論的に見いだし、実験的に検証することに成功した。この成果は、グラフェンの pn 接合における量子ホール状態を用いて、様々な電子の干渉計(量子干渉素子)を実現できる可能性を示唆する。

*Sosuke Ito, Takahiro Sagawa,
Maxwell’s demon in biochemical signal transduction with feedback loop,
Nature Communications 6, 7498 (2015).

概要: 近年、情報理論と熱力学を融合させた「情報熱力学」が理論と実験の両面から注目を集めている。本研究で我々は、情報熱力学を生体内のシグナル伝達の解析に応用した。とくにフィードバックループがあるシグナル伝達の例として、大腸菌の走化性の適応モデルを解析した。我々は、情報熱力学の第二法則を応用することにより、大腸菌の適応の外界からのノイズに対する頑健性と、フィードバックループ内を流れる情報流の間の定量的な関係を発見した。とくに、transfer entropyと呼ばれる情報量が、適応度の上限を与えることが明らかになった。さらに我々の数値実験結果から、大腸菌の適応ダイナミクスは、通常の熱機関としては非効率(散逸的)だが、情報熱機関としては効率的であることが明らかになった。我々の結果は、生体内の情報処理を情報熱力学の観点から解析する第一歩になると考えられる。

*Timothy Halpin-Healy, Kazumasa A. Takeuchi,
A KPZ Cocktail: Shaken, not stirred… -Toasting 30 years of kinetically roughened surfaces,
Journal of Statistical Physics 160, 794-814 (2015).

概要: Kardar-Parizi-Zhang、いわゆるKPZ方程式は、およそ30年前に考案され、それに関わる物理学は、今でも最先端の話題として多くの科学者を魅了し続けている。本論文ではKPZ方程式に関する30年間の進展を手短に概観するとともに、KPZクラスを特徴づける非平衡ゆらぎの新たな性質や、思索的な観察結果等を紹介する。

Misaki Ozawa, *Walter Kob, Atsushi Ikeda, and Kunimasa Miyazaki,
Equilibrium phase diagram of a randomly pinned glass-former,
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 112, 6914-6919 (2015).

概要: ガラス転移点の存在がいまだに証明されていない理由は、緩和時間の増大に阻まれて、転移点を直接観測することが出来ないことにある。最近、この困難を克服するアイデアがスピングラスの平均場模型の解析から提案された。これは構成粒子の一部を凍結(ピニング)させ、これを不純物と見なすことにより、真のガラス転移点を高温側に引き上げるというものである。熱平衡状態で得られた粒子配置をピニングさせるため、この系の配置情報や静的な物理量は完全にバルクのそれと一致している。研究代表者らは、3次元の液体の分子の配置を一部ピニングした系のシミュレーションを行い、有限次元の液体においても真のガラス転移点(理想ガラス転移点)が存在することを検証することに初めて成功した. 【宮崎州正(論文の執筆、研究全体の統括)】

*Taiki Haga,
Nonequilibrium Langevin equation and effective temperature for particle interacting with spatially extended environment,
Journal of Statistical Physics 159, 713-729 (2015).

概要: 空間的に広がった環境と相互作用する古典粒子の非平衡ダイナミクスを記述するランジュバン模型を解析する。この模型においては、粒子が環境と非線形相互作用をし、外力が加えられると非平衡定常状態に到達する。非平衡定常状態において粒子に対する有効的なランジュバン方程式を導出する。この方程式を使うことで、揺らぎと応答の関係から有効温度を定義する。その結果、スケール分離が十分なとき、その有効温度が運動論的温度と等しいことが示された。また、その有効温度が力―速度関係式から決定できることも示した。  【佐々(議論)】

*Shin-ichi Sasa,
Collective dynamics from stochastic thermodynamics,
New Journal of Physics 17, 045024/1-14 (2015).

概要: ゆらぐ熱力学の観点から、大域結合XY模型における秩序無秩序転移や蔵本模型における集団同期転移の近くでの集団ダイナミクスを導出する。新しい考え方は、巨視変数の時間変化を熱力学系への操作と解釈することである。そこで、不可逆仕事が集団ダイナミクスに対する方程式を決定することが分かった。蔵本模型を解析するときには、定常状態熱力学に関係する非平衡恒等式に由来する不可逆仕事の一般化された概念を使う。【IOP SELECT】

*Naoto Shiraishi, Sosuke Ito, Kyogo Kawaguchi, and Takahiro Sagawa,
Role of measurement-feedback separation in autonomous Maxwell’s demons,
New Journal of Physics 17, 045012/1-11 (2015).

概要: 自律的マクスウェルデーモンにおける、測定とフィードバックの役割を明らかにした。とくに、自律的ではあるが測定とフィードバックのタイミングが分離している新しいモデルを提案し、それと従来知られていた分離していないモデルの比較を行った。その結果、後者が前者の極限として得られることが、ゆらぎの定理のレベルで明らかになった。 

*Kiyoshi Kanazawa, Tomohiko G. Sano, Takahiro Sagawa, and Hisao Hayakawa,
Minimal Model of Stochastic Athermal Systems: Origin of Non-Gaussian Noise,
Physical Review Letters 114, 090601/1-10 (2015).

概要: 非ガウスノイズに駆動されるランジュバン方程式を、よりミクロなモデルから導出した。これはvan Kampenのシステムサイズ展開の方法を拡張したものである。さらに、解析的に解けるモデルについて、非熱的な環境の情報を推定するための公式を導いた。

*Hiroyuki Ebata and Masaki Sano,
Swimming droplets driven by a surface wave,
Scientific Reports 5, 8546/1-7 (2015).

概要: 加振された液滴が示す形態の時間発展と並進運動に関する実験と解析。加振を増加させてゆくと、回転、振動、直進、ジグザグなどの非自明な重心運動が液滴の形の変化を伴って現れる。それに対して、分岐理論による解析を行い、実験と良く一致することを明らかにした。

*Takaki Yamamoto, Masafumi Kuroda, and Masaki Sano,
Three-dimensional analysis of thermo-mechanically rotating cholesteric liquid crystal droplets under a temperature gradient,
EPL 109, 46001/1-6 (2015).

概要: カイラル液晶に温度勾配を印可した際に現れる回転運動は、非平衡クロス効果の一種であり、レーマン効果と呼ばれている。カイラル液晶の液滴を用いて、蛍光配向共焦点顕微鏡法により回転液滴の内部配向構造を始めて測定することに成功した。また、様々の配向条件の下で回転速度の温度勾配依存性やサイズ依存性を定量的に測定し、その結果から従来の理論では説明できない効果を見いだし、表面効果を考慮した現象論的解析を行った。

*Juan M. R. Parrondo, Jordan M. Horowitz, and Takahiro Sagawa,
Thermodynamics of information,
Nature Physics 11, 131-139 (2015).

概要: 情報熱力学の近年の発展についてのレビューを行った。とくに、近年はじめて実現されたマクスウェルのデーモンの実験についてのレビューを行い、また近年整備された情報熱力学の一般的な理論についての包括的な解説も行った。

Alexei Borodin, Ivan Corwin, Leonid Petrov, and Tomohiro Sasamoto,
Spectral theory for the q-boson particle system,
Compositio Mathematica 151, 1-67 (2015).

概要: KPZ普遍性クラスに入っている離散モデルとして、q-TASEPやqボソンゼロレンジ過程は、レプリカ法を厳密に適用出来る系として重要な役割を果たしている。本論文では、これらの模型の時間発展演算子の固有値、固有関数の性質、特にその完全性や、和公式に関する結果を得た。

*Naoto Shiraishi and Takahiro Sagawa,
Fluctuation theorem for partially masked nonequilibrium dynamics,
Physical Review E 91, 012130/1-7 (2015).

概要: 部分的な遷移しか観測できないようなマルコフ過程について、観測可能な遷移だけに対応した「部分エントロピー生成」の概念を導入し、それに対応する新しいゆらぎの定理を導出した。その特別な場合として、自律的なマクスウェルのデーモンが満たすゆらぎの定理が明らかになった。

*Tomonori Arakawa, Junichi Shiogai, Mariusz Ciorga, Martin Utz, Dieter Schuh, Makoto Kohda, Junsaku Nitta, Dominique Bougeard, Dieter Weiss, Teruo Ono, and Kensuke Kobayashi,
Shot noise induced by nonequilibrium spin accumulation,
Physical Review Letters 114, 016601/1-5 (2015).

概要: スピン流は電流に替わる新たな物理量として注目されており、近年、その生成・検出手法が盛んに研究されている。我々は、強磁性半導体(Ga,Mn)Asと非磁性半導体GaAsからなるトンネル接合にスピン流を印加し、電流ゆらぎ測定を行った。トンネル接合に流れるスピン流と電流を独立に制御することで、ショット雑音に含まれる電流とスピン流の寄与を分離して評価することによって、スピン流の絶対値が求まると同時に、ショット雑音とスピン流の比例関係を実証した。 【Phys. Rev. Lett.誌「Editors' Suggestion」(編集部による注目論文)に選出。】

Corrado Rainone, Pierfrancesco Urbani, Hajime Yoshino, *Francesco Zamponi,
Following the evolution of glassy states under external perturbations: compression and shear-strain,
Physical Review Letters 114, 015701/1-5 (2015).

概要: 圧縮や減圧・シアなどの摂動に対するガラス準安定状態の断熱的な応答を第一原理的に解析する方法を、レプリカ液体論に基づいて提案した。またこれを無限大次元剛体球ガラスにおいて実際に適用した。その結果、減圧やシアによってガラス準安定状態が溶けたり、降伏したりする現象を第一原理的な理論によって捉えることに初めて成功した。また圧縮やシアによって、個々のガラス準安定状態においてレプリカ対称性が破れること、すなわち準安定状態のさらなる枝分かれ現象(ガードナー転移)が起こる事を捉えた。 【吉野元(シアに対する線形・非線形応答に関する理論解析を担当)】

Masato Itami and Shin-ichi Sasa,
Nonequilibrium Statistical Mechanics for Adiabatic Piston Problem,
Journal of Statistical Physics 158, 37-56 (2015).

概要: 断熱ピストン問題の簡単な場合、ピストンの運動はマスター方程式で記述される。その方程式を非平衡統計力学の立場から完全に解析した。線形応答理論やゆらぎの定理などが具体的にどのように書けるのかを示した。また、壁が動く場合の局所詳細つりあいの条件などこれまで明示的には議論されてなかったことを微視的な視点から導出した。

2014

Tomohiro Sasamoto, and Lauren Williams,
Combinatorics of the asymmetric exclusion process on a semi-infinite lattice,
Journal of Combinatorics 5(4), 419-434 (2014).

概要: KPZ普遍性クラスに入っている離散モデルとして、q-TASEPやqボソンゼロレンジ過程は、レプリカ法を厳密に適用出来る系として重要な役割を果たしている。本論文では、これらの模型の時間発展演算子の固有値、固有関数の性質、特にその完全性や、和公式に関する結果を得た。

Ismael S. S. Carrasco, Kazumasa A. Takeuchi, Silvio da Costa Ferreira Junior, and *Tiago José Oliveira,
Interface fluctuations for deposition on enlarging flat substrates,
New Journal of Physics 16, 123057/1-20 (2014).

概要: ゆらぎを伴う界面成長の他、様々な非平衡ゆらぎを記述することがわかりつつあるKardar-Parisi-Zhang (KPZ)普遍クラスでは、界面の巨視的な形状によって(例えば、円形か平面状かによって)異なる普遍サブクラスに分離することが知られている。本研究では、KPZクラスに属する複数のモデルを数値計算し、界面に曲率を付ける代わりに、システムサイズを時刻と共に増大させていったところ、円形界面の普遍サブクラスが現れることを発見した。このことから、円形界面と平面界面のサブクラスを分かつのに、システムサイズの増大の有無が、界面の曲率や初期条件と同程度か、それよりも基本的な役割を果たしている可能性が示唆される。また、システムサイズが増大する平面界面は円形界面よりも数値計算が容易であり、本成果によって、円形界面の様々な統計則を数値的に高精度で測定することが可能となった。 【竹内一将(他の著者とは独立に本研究の着想に至り、一部のモデルの数値計算や、他著者の得た数値データの解析などを担当)】

Saroj Kumar Nandi, *Giulio Biroli, Jean-Philippe Bouchaud, Kunimasa Miyazaki, and David R. Reichman,
Critical dynamical heterogeneities close to continuous second-order glass transitions,
Physical Review Letters 113, 245701/1-5 (2014).

概要: 非一様モード結合理論をもちいて、連続ガラス転移点近傍の臨界的振る舞いを解析した。その結果、動的相関長の臨界指数が、臨界点近傍で1/3であることを見出し、かつ上部臨界次元が6であることをあきらかにした。さらに、動的相関長の時間依存性が$(log t)^2$であることも明らかになった。

Alexei Borodin, *Ivan Corwin, Tomohiro Sasamoto,
From duality to determinants for q-TASEP and ASEP,
Annals of Probability 42, 2314-2382 (2014).

概要: KPZ方程式の解析においては、レプリカ法という方法が有用であるが、計算の途中で現れる級数が発散するなど、数学的には困難が残っていた。本論文においてはKPZ方程式の離散化にあたるq-TASEPとASEPという2つのモデルに対し、双対性を用いてレプリカ法と同等の計算を厳密に実行することが可能である事を示した。

Takahiro Nemoto, Vivien Lecomte, Shin-ichi Sasa, and *Friédéric van Wijland,
Finite size effects in a mean-field kinetically constrained model: dynamical glassiness and quantum criticality,
Journal of Statistical Mechanics -, P10001/1-38 (2014).

概要: 平均場運動論的拘束模型は、平衡状態は自明だが、動的な振る舞いについてガラス的な異常性を示すもっとも簡単な模型である。具体的には、アクティビティーの長時間平均のキュムラント母関数はゼロバイアス点で特異性を示す。その有限サイズ効果を詳しく調べた。また、その解析と量子臨界点の解析は等価であることが分かった。

Hajime Yoshino and Francesco Zamponi,
The shear modulus of glasses: results from the full replica symmetry breaking solution,
Physical Review E 90, 022302/1-14 (2014).

概要: 無限大次元における剛体球ガラスの剛性率について、厳密解に基づく理論解析を行った。まずガラス秩序パラメータに加え、シア歪みをあらわに含む自由エネルギーの厳密な表式を導出した。これをもとに、ガラス転移、ジャミング転移に伴う剛性率の特異的な振舞いを明らかにした。特に、ジャミング密度に向かう剛性率のスケーリング特性は、連続レプリカ対称性の破れを直接反映していることが明らかになった。 【吉野 元: 研究の構想と理論計算】

*Naoko Nakagawa,
Universal expression for adiabatic pumping in terms of nonequilibrium steady states,
Physical Review E 90, 022108/1-6 (2014).

概要: 非平衡定常系への操作的仕事と平衡系に誘起される輸送流(ポンピング)を結ぶ等式を導いた。これにより、平衡系に誘起されるポンピング量は、平衡状態と非平衡状態の両方について同じ力学的操作を行い、その際に要する仕事量がどの程度ずれるかを計測することで予想可能になることがわかった。また、平衡系に誘起されるポンピングは、カノニカル分布と非平衡定常分布によるFisher情報量行列を使って表現できることも示した。この結果は、非平衡研究と情報論を結ぶ新規な視点を提案しており、今後の発展が期待できる。

*Takahiro Tanaka, Tomonori Arakawa, Masahiro Maeda, Kensuke Kobayashi, Yoshitaka Nishihara, Teruo Ono, Takayuki Nozaki, Akio Fukushima, and Shinji Yuasa,
Leak current estimated from the shot noise in magnetic tunneling junctions,
Applied Physics Letters 105, 042405/1-4 (2014).

概要: 我々はMgOの膜厚を系統的に変化させたトンネル磁気抵抗素子におけるショット雑音を測定しファノ因子を見積もった。その結果、膜厚が薄くなるとファノ因子が1から減少し反平行においてより小さくなることを発見した。この現象は、リーク電流によって説明可能であり、ファノ因子からリーク電流の大きさを見積もることに成功した。

Suman G. Das, Abhishek Dhar, Keiji Saito, Christian B. Mendl, Herbert Spohn,
Numerical test of hydrodynamic fluctuation theory in the Fermi-Pasta-Ulam chain,
Physical Review E 90, 12124/1-11 (2014).

概要: 本新学術領域のテーマの一つでもある界面成長のダイナミクスに関係する仕事も行った。ただしここでは本物の界面成長ではなく、一次元熱輸送現象のダイナミクスの中に非自明にカーダー・パリージ・ザンの方程式が現れることを数値的に実証したのである。異常な輸送現象を示すフェルミ−パスタ−ウラム系において大規模数値計算をすることでこの予想を実証した。 【齊藤圭司(計算、論文執筆)】

*Kiyoshi Kanazawa, Takahiro Sagawa, and Hisao Hayakawa,
Energy pumping in electrical circuits under avalanche noise,
Physical Review E 90, 012115/1-8 (2014).

概要: 非熱的な環境下で非ガウスノイズに駆動される電気回路を外部から駆動したときに、取り出せるエネルギーについて議論した。ここで、サイクルで取り出せるエネルギーが正になりうることが、熱的な環境と大きな違いである。とくに、そのようなエネルギーがベリー位相として理解できることを示した。

*Jordan M. Horowitz and Takahiro Sagawa,
Equivalent Definitions of the Quantum Nonadiabatic Entropy Production,
Journal of Statistical Physics 156, 55-65 (2014).

概要: 非平衡定常系の熱力学において重要な概念である過剰エントロピー生成は、量子系に拡張する際にこれまで二つの定義が存在した。一方は量子軌跡を用いるもの、他方は相対エントロピーを用いるものである。この論文で我々は、両者が等価であることを証明した。

*Kensaku Chida, Tokuro Hata, Tomonori Arakawa, Sadashige Matsuo, Yoshitaka Nishihara, Takahiro Tanaka, Teruo Ono, and Kensuke Kobayashi,
Avalanche electron bunching in a Corbino disk in the quantum Hall effect breakdown regime,
Physical Review B 89, 235318/1-4 (2014).

概要: 量子ホール状態にあるコルビノ型円盤にて電流雑音測定を行い、量子ホール効果ブレークダウンに伴う電流雑音の増大を観測した。観測された電流雑音スペクトルは白色で、ファノ因子を見積もると1を上回った。これはコルビノ型円盤の中で雪崩的電子散乱が起こったことを意味する。

*Jonne V. Koski, Ville F. Maisi, Takahiro Sagawa, and Jukka P. Pekola,
Experimental Observation of the Role of Mutual Information in the Nonequilibrium Dynamics of a Maxwell Demon,
Physical Review Letters 113, 030601/1-5 (2014).

概要: 我々はフィードバック制御された系の仕事に関する一般化Jarzynski等式を実験的に検証した。フィードバック制御は単一電子箱にたいしてなされた。これはオリジナルのシラード・エンジンのアナロジーである。一般化Jarzynski等式においては、相互情報量と熱力学的仕事が対等に扱われている。我々の実験は、熱力学的不可逆過程における相互情報量の役割を検証した初めてのものである。

*Kyogo Kawaguchi, Shin-ichi Sasa, and Takahiro Sagawa,
Nonequilibrium dissipation-free transport in F1-ATPase and the thermodynamic role of asymmetric allosterism,
Biophysical Journal 106, 2450-2457 (2014).

概要: F1-ATPaseのエネルギー収支に関する実験で、ポテンシャル切り替えに伴うエネルギー散逸が化学反応によるエネルギーゲインに比べて非常に小さいことが報告されている。その実験および他に知られている諸々の実験と矛盾のない模型を提案した。

*Kyogo Kawaguchi, Shin-ichi Sasa, and Takahiro Sagawa,
Nonequilibrium Dissipation-free Transport in F1-ATPase and the Thermodynamic Role of Asymmetric Allosterism,
Biophysical Journal 106, 2450–2457 (2014).

概要: 可逆分子モーターであるF1-ATPaseについて、内部散逸がないという実験結果を説明する新しい理論モデルを提案した。これはF1の内部構造とアロステリック機構について示唆を与えるものであり、近い将来実験によって検証されることが期待される。 【佐々真一(議論と数値実験を行い、共同で論文を執筆した)】

*Hiroki Ohta and Shin-ichi Sasa,
Jamming transition in kinetically constrained models with the parity symmetry,
Journal of Statistical Physics 155, 827-842 (2014).

概要: 2次元系格子で定義された運動論的に拘束された模型のクラスにおいて有限濃度でエルゴード=非エルゴード転移(ジャミング転移)を示す模型を構成した。これまで知られていた模型とは対称性が異なっており、その普遍性について新たな問題を投げかけた。

Masato Itami and Shin-ichi Sasa,
Macroscopically measurable force induced by temperature discontinuities at solid-gas interfaces,
Physical Review E 89, 052106/1-6 (2014).

概要: 自由に移動できる固体が温度の異なる希薄気体と接触するとき、温度ギャップがそれぞれの界面で生じる。その結果として生じる駆動力が非常に大きいことを明示的に示した。具体的な物体の物性値を用いて、秒速10センチを超える速度が実現しうることを示した。

*Kenji Tanabe, Ryo Matsumoto, Jun-ichiro Ohe, Shuichi Murakami, Takahiro Moriyama, Daichi Chiba, Kensuke Kobayashi, and Teruo Ono,
Real-time observation of Snell’s law for spin waves in a thin ferromagnetic film,
Applied Physics Express 7, 053001/1-4 (2014).

概要: 膜厚がステップ状に変化する強磁性細線中を伝播するスピン波を実時間測定した。光の伝播と媒質の屈折率の関係を記述するスネルの法則がスピン波の場合にも成り立つことを初めて実証した。本研究によってスピン波の波数を構造によって制御できることが確認されたことから、「マグノニクス」における新たな応用の可能性が開けることが期待される。

Julian Stark, Kay Brandner, Keiji Saito, and Udo Seifert,
A Classical Nernst Engine,
Physical Review Letters 112, 140601/1-5 (2014).

概要: 熱の流入が電流に変換されるいわゆる熱電効果を考察した。とくに磁場などで時間反転対称性を奪ったとき、熱効率と仕事率がどのような関係にあるかに焦点をあてた。線形応答の解析では、熱力学第2法則はカルノー効率と有限の仕事率の共存を許してしまう。この共存は直感に反するので、自然界には熱力学第2法則よりも強い拘束があることが、すでに予想されていた。このような背景の中、磁場が存在してはじめて生じるネルンスト効果に注目し、電子間に相互作用がない状況下での厳密な熱効率の上限を導いた。 【齊藤圭司(テーマの提案、計算)、Editors' Suggestion に選ばれた。】

*Takahiro Sagawa,
Thermodynamic and Logical Reversibilities Revisited,
Journal of Statistical Mechanics, 1-33 (2014).

概要: 熱力学的可逆性と論理的可逆性の概念は、情報と熱力学を結びつける鍵となるものであると考えられてきた。この論文では、両者の関係についての従来の混乱を整理した。さらに、情報熱力学についての包括的な理論体系についてレビューした。

*Shin-ichi Sasa,
Derivation of hydrodynamics from the Hamiltonian description of particle systems,
Physical Review Letters 112, 100602 (2014).

概要: ハミルトニアン粒子系は、質量、運動量、エネルギーの密度場の時間変化として、流体現象を示す。この論文では、初期時刻で局所ギブス分布に従うと仮定して、時間変化を記述する厳密な時間発展が導かれる。鍵となるのは、ゆらぎ定理と似た形の恒等式である。スケール分離をあらわす小さいパラメータに関する簡単な摂動展開の結果として、Navier-Stokes方程式が導かれる。

*Takahiro Nemoto, and Shin-ichi Sasa,
Computation of large deviation statistics via iterative measurement-and-feedback procedure,
Physical Review Letters 112, 090602/1-5 (2014).

概要: 一般的なマルコフ確率過程において時間平均量についての大偏差統計の新しい計算方法を提案した。提案する方法では、外力に対する応答が測定されるが、その外力は前回の測定によってフィードバックとして決められる。結果として、もとの系のまれな事象を典型的な振る舞いとして記述する指数族を得ることになる。この方法の有用な使い方のデモとして、1次元格子模型の大偏差統計を研究する。

*Masahito Ueda and Shin-ichi Sasa,
Calculation of 1RSB transition temperature of spin glass models on regular random graphs under the replica symmetric ansatz,
Journal of Statistical Mechanics: Theory and Experiment P02005/1-21 (2014).

概要: レギュラーランダムグラフ上のp体スピングラス模型を研究した。2体キャビティー場近似のもとで、Franz-Parisiポテンシャルを解析することで、1RSB転移点に対する良い近似値を得た。私たちの計算方法は、ニュートン法によって自己無矛盾方程式を解くだけで得られるので、従来の1RSBキャビティー法よりもずっと簡単である。

*Shin-ichi Sasa,
Possible extended forms of thermodynamic entropy,
Journal of Statistical Mechanics: Theory and Experiment , P01004/1-16 (2014).

概要: 熱力学エントロピーはクラウジウス関係式によって熱測定で決定される。それは、熱力学第2法則によって操作限界も定式化する。さらに、微視的自由度に対するシャノンエントロピーとしてあらわされる。熱力学エントロピーの拡張を考えるときには、この3つの側面がどのように変わるのかについて考える必要がある。この論文では、熱力学エントロピーの可能な拡張形について議論した。

*Kazumasa A. Takeuchi,
Experimental approaches to universal out-of-equilibrium scaling laws: turbulent liquid crystal and other developments,
Journal of Statistical Mechanics: Theory and Experiment P01006/1-28 (2014).

概要: 本論文は、非自明かつ普遍的なスケーリング則が現れる非平衡系として知られる「吸収状態転移」と「ゆらぐ界面成長」に関し、最近の実験研究の主な進展をまとめたものである。前半では、液晶電気対流の乱流状態において著者らが得た主要な成果として、乱流間転移の臨界現象がdirected percolationクラスに属すること、また、一方の乱流状態が他方を侵食していく際にはKardar-Parisi-Zhangクラスの界面ゆらぎが現れることを解説する。後半では、これら二つの普遍クラスを中心に、関連する実験研究を紹介・検討する。吸収状態転移や界面ゆらぎを解析する際の勘所についても手短に解説している。 【佐野雅己(実験面での共同研究)、笹本智弘(理論面での共同研究)】

Takeshi Kuroiwa and *Kunimasa Miyazaki,
Brownian motion with multiplicative noises revisited,
Journal of Physics A: Mathematical and Theoretical 47, 012001/1-8 (2014).

概要:コロイド粒子などのブラウン運動を記述するランジュバン方程式において、ノイズが粒子自身の位置座標などの自由度に依存する場合、「乗法的」過程と呼ばれる。乗法的過程ではノイズが原理的に非線形となるために特有の困難が生じる。特にノイズの解釈問題は典型的な問題である。我々はこの解釈問題を、早い自由度の断熱的消去によりあいまいさなく導くことに成功した。この結果は揺動散逸定理などに頼らない一般的なものである。

Johannes-Geert Hagmann, Naoko Nakagawa, and *Michel Peyrard,
Characterization of the low-temperature properties of a simplified protein model,
Physical Review E 89, 012705/1-13 (2014).

概要: 単純化したタンパク質モデルの揺らぎが、タンパク質の動的相転移とよく似た傾向を持つという数値計算結果が得られている。これがガラス転移の存在を示唆しているのか否かを、揺らぎに関する多面的な研究から吟味し、ガラス転移とは異なるという結論を導きだした。とくに揺動散逸関係式の破れから定義した有効温度がアレニウス則に従う非常に遅い緩和を見せることを数値的に発見し、通常のガラス系で知られる緩和しない有効温度とは異なる性質であることがわかった。この発見を含む全ての吟味結果が、モデルタンパク質の遅い揺らぎはガラスとは異なることを示唆した。 【中川尚子(研究計画の方針決定、数値計算結果の吟味と解釈)】

*Hirokazu Tanimoto and Masaki Sano,
A simple force-motion relation for migrating cells revealed by multipole analysis of traction stress,
Biophysical Journal 106, 16-25 (2014).

概要: 一般に、細胞運動を力学的に記述し予測することは難しい。アメーバ細胞などの一見ランダムな運動がどのように生み出されるのか、運動方向はどのように決まるのかについては、未だに多くの議論がある。我々は、細胞性粘菌のアメーバ細胞を用いて、空間スケール1μ以下でnNオーダーの応力分布を測定することのできる牽引力顕微鏡の技術を開発し、細胞が基盤に及ぼす応力の空間分布のそのダイナミクスを測定した。細胞は自律的に動き回り、外力が働かないため、力の合力はゼロであるため、空間分布の多重極展開を行った。その解析の結果、力の双極子成分が運動の軸を決定し、四重極成分が運動方向を決めていることを見いだした。これにより応力分布から細胞の運動方向を予測することが可能であることを初めて明らかにした。応力分布の詳細なダイナミクスの解析も併せて示した。 (東大理学部のWeb版プレスリリースに掲載された。)

2013

*Takahiro Sagawa and Masahito Ueda,
Role of mutual information in entropy production under information exchanges,
New Journal of Physics 15, 125012/1-23 (2013).

概要: 測定とフィードバックをはじめとする情報処理の熱力学について、一般的な理論体系を構築した。とくに、これまでの論文では明確にしていなかったメモリの構造などの点も注意深く議論し、情報処理の際のエントロピー生成の概念を明確にした。

*Jung Jun Park, Kang-Hwan Kim, Takahiro Sagawa, and Sang Wook Kim,
Heat Engine Driven by Purely Quantum Information,
Physical Review Letters 111, 230402/1-5 (2013).

概要: 量子ディスコートと呼ばれる量子情報量を使って、仕事を取り出すことができる熱機関の理論的提案を、沙川らが行った。これまでも量子ディスコードと熱機関の関係は議論されていたが、本研究は、統計力学に基づいた厳密な表式を得て、かつ具体的なモデルを提案した初めてのものである。

*Keiji Saito and Takeo Kato,
Kondo signature in heat transfer via a local two-state system,
Physical Review Letters 111, 214301/1-4 (2013).

概要: 2準位系を介して量子的な熱が流れる場合を研究した。特に近藤効果が生じる低温領域に注目する。形式的に厳密な熱伝導度の表式を導出しそれを線形応答領域で解析した。その結果熱の流れは、近藤温度より高温か低温かで振る舞いが区別されることが分かった。それらの具体的な表式も導出した。

*Hiroyuki Ebata and Masaki Sano,
Bifurcation from stable holes to replicating holes in vibrated dense suspensions,
Physical Review E 88, 053007/1-8 (2013).

概要: 垂直に加振された濃厚粒子懸濁液に生じるホールとその自己複製現象に関する実験とモデルに関する研究である。自己複製するパターンは、これまで反応拡散系などで知られていたが、粒子懸濁液の系で安定なホール構造と間欠的な分裂を繰り返す不安定性を見いだした。また、対応するダイナミクスにおける変形の確率分布や分裂の時間間隔などを再現する数理モデルを提案した。

*Patrik L. Ferrari, Tomohiro Sasamoto, Herbert Spohn,
Coupled Kardar-Parisi-Zhang Equations in One Dimension,
Journal of Statistical Physics 153, 377-399 (2013).

概要: 過去数年にわたり、一次元KPZ方程式の解のスケーリング特性の理解は、理論的にも実験的に、かなり進んでいる。この論文では、そこで得られた知見の一部を、結合した1次元KPZ方程式に拡張する。多成分確率的駆動あり格子ガスの非線形な揺らぎのある流体力学との等価性を確立する。理論の予測を確認するために、二成分AHRモデルのモンテカルロシミュレーションを行い、スケーリング指数だけでなく、スケーリング機能と非普遍係数に関しても比較した。

*Tatsuro Yuge, Takahiro Sagawa, Ayumu Sugita, and Hisao Hayakawa,
Geometrical Excess Entropy Production in Nonequilibrium Quantum Systems,
Journal of Statistical Physics 153, 412-441 (2013).

概要: 量子系を外部から周期的に操作した時に、ベリー位相に類似の効果で非平衡カレントが発生することが知られている。沙川らはこれを非平衡定常熱力学に応用し、量子系における非平衡エントロピーの幾何学的な表式を得た。

Sosuke Ito and Takahiro Sagawa,
Information Thermodynamics on Causal Networks,
Physical Review Letters 111, 180603/1-6 (2013).

概要: 複数の非平衡系が複雑に相互作用して情報交換をしているプロセスについて、ゆらぎの定理と熱力学第二法則の一般化を導出した。このような状況を特徴づけるためにベイジアンネットワークと呼ばれる概念を用いた。そして、その一般化においてはtransfer entropyと呼ばれる情報の流れを表す量が重要な役割を果たすことを明らかにした。

*Sang Wook Kim, Kang-Hwan Kim, Takahiro Sagawa, Simone De Liberato, and Masahito Ueda,
Kim et al. Reply:,
Physical Review Letters 111, 188902/1 (2013).

概要: 量子シラードエンジンから取り出せる仕事量について、我々のかつての研究に対するPleschらの批判が妥当でないことを示した。とくに、我々のプロトコルにおいては、熱力学第二法則の上限すべてに対応する仕事を取り出すことはできないが、これは物理的に自然であることを示した。

*Sadashige Matsuo, Kensaku Chida, Daichi Chiba, Teruo Ono, Keith Slevin, Kensuke Kobayashi, Tomi Ohtsuki, Cui-Zu Chang, Ke He, Xu-Cun Ma, and Qi-Kun Xue,
Experimental Proof of Universal Conductance Fluctuation in Quasi-1D Epitaxial Bi2Se3 Wires,
Physical Review B 88, 155438/1-8 (2013).

概要: トポロジカル絶縁体の母体物質であるBi2Se3を量子細線に加工した試料を用いて、伝導度ゆらぎをプローブとすることによって量子コヒーレントな伝導を研究した。細線長さを長くしていくと、伝導度ゆらぎが増大して行くことを見いだした。この様子は、コヒーレンス長さ、熱拡散長、細線長さに良くスケールし、普遍的伝導ゆらぎの理論に合致する振る舞いであった。この研究は、普遍的伝導度ゆらぎの理論を、スピン軌道相互作用が強い系において定量的に検証した初めての例となっている。

*Tomonori Arakawa, Yoshitaka Nishihara, Masahiro Maeda, Shota Norimoto, and Kensuke Kobayashi,
Cryogenic amplifier for shot noise measurement at 20 mK,
Applied Physics Letters 103, 172104/1-4 (2013).

概要: 20mKという極低温下におけるメゾスコピック伝導体におけるショット雑音測定システムを構築したので報告する。高電子移動度トランジスタを用いた低温動作可能な増幅器を自作することにより、20mKにおける精度が10^-29 A^2/Hzという高精度の電流ゆらぎの測定に成功した。

Takashi Imamura, *Tomohiro Sasamoto, Herbert Spohn,
On the equal time two-point distribution of the one-dimensional KPZ equation by replica,
Journal of Physics A: Mathematical and Theoretical 46, 355002/1-9 (2013).

概要: 1次元のKardar-Parisi-Zhang方程式の厳密解においては、1点高さ揺らぎは厳密解が見いだされ、詳しく調べられているが、多点の分布については理解が遅れている。最近Dotsenkoが長時間極限における2点分布に関するある表式を得たが、KPZ方程式以外の系に対する先行研究で得られたとの関係が明らかではなかった。本論文ではDotsenkoが得た表式が以前から知られていたAiry過程と呼ばれる過程の2点分布と等しい事を示した。(IOP selectに選ばれた。)

*Jonne V. Koski, Takahiro Sagawa, O-P. Saira, Y. Yoon, A. Kutvonen, P. Solinas, M. Möttönen, T. Ala-Nissila, and Jukka P. Pekola,
Distribution of entropy production in a single-electron box,
Nature Physics 9, 644-648 (2013).

概要: フィンランドのグループとの共同研究により、異なる温度の二つの熱浴に接する単一電子箱において、ゆらぎの定理の実験的検証を行った。その際、観測される軌道から見積もれる粗視化されたエントロピー生成と、発熱から定義される通常のエントロピー生成の関係を詳しく解析した。

*Kang Kim, Shinji Saito, Kunimasa Miyazaki, Giulio Biroli, and *David R. Reichman,
Dynamic Length Scales in Glass-Forming Liquids: An Inhomogeneous Molecular Dynamics Simulation Approach,
The Journal of Physical Chemistry B 117, 13259–13267 (2013).

概要: 過冷却液体の動的不均一性の起源となる相関長を特徴づけるための新しい手法を研究した。この手法は不均一モード結合理論のアイデアに触発されたもので、空間的に変調された相互作用をプローブ用の外場として印可し、その線形応答を直接観測するものである。我々が得た結果は、モード結合理論の予想を定性的に裏付けるものであった。また、通常動的不均一性を測定する際に使われる4点相関関数との関係も論じた。

*Jordan M. Horowitz, Takahiro Sagawa, and Juan M. R. Parrondo,
Imitating Chemical Motors with Optimal Information Motors,
Physical Review Letters 111, 010602/1-5 (2013).

概要: 化学モーターと同じ動きをする可逆な情報モーターのモデルを提案した。両者のダイナミクスは同じであるが、エントロピー生成が大きく異なる振る舞いをすることを見出した。とくに、情報モーターは有限速度で動いているときにエントロピー生成が最小値を取ることを見出した。

*Kiyoshi Kanazawa, Takahiro Sagawa, and Hisao Hayakawa,
Heat conduction induced by non-Gaussian athermal fluctuations,
Physical Review E 87, 052124/1-10 (2013).

概要: 非ガウスノイズによって駆動される非熱的な環境が二つブラウン粒子を介して接触しているとき、ノイズの非ガウス性によって駆動されるエネルギー流があることを発見した。このエネルギー流の大きさはノイズの分散だけでは特徴づけることができず、その意味で熱力学第ゼロ法則が成立していないことを明らかにした。