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A03公募班(2016-2017)

論文等 | 原著論文

2018

Kei Fujiwara, Takuma Adachi, Nobuhide Doi,
Artificial Cell Fermentation as a Platform for Highly Efficient Cascade Conversion,
ACS Synthetic Biology, in press (2018).

概要: 本研究では、浸透圧処理により形成されたバクテリア型リポソーム内でカスケード酵素変換を行い、人工細胞系でもバルクシステムの最大濃度(0.10M、例えば4.6g / L)に等しいレベルで最終生成物を生成可能であることを示した。特筆すべきことに、希釈条件下では、人工細胞系の変換効率はバルク系よりも著しく高かった。 我々の結果は、人工細胞を微生物のような発酵生産を行うプラットフォームとして用いることができることを示している。

Salomé Mielke, Taichi Habe, Mariam Veschgini, Xianhe Liu, Kenichi Yoshikawa, Marie Pierre Krafft, and *Motomu Tanaka,
Emergence of Strong Nonlinear Viscoelastic Response of Semifluorinated Alkane Monolayers,
Langmuir, in press.

概要: 本研究では、界面膨張レオロジー法によりフッ化炭素鎖と炭化水素鎖からなるテトラブロック型両親媒性分子di(FnHm)の気液界面単分子膜の粘弾性特性測定を行った。膜面積の周期的な強制振動に対する周波数分散応答関数がdi(FnHm)の2次元ゲル形成を示唆したため、ケルビン‐フォークトモデルを用いた粘弾性解析を行った。しかし、低表面張力条件・小振幅条件においても、応力応答関数が明確な非線形性を示した。応答関数のフーリエ変換解析により、鏡面対称性に起因した非線形弾性成分に対応する奇数次モードのみが増大することを明らかにした。このような弱い表面張力とひずみ振幅におけるdi(FnHm)単分子膜の強い非線形粘弾性は、これまでに報告されている界面活性剤系には見られない特徴であり、分子間の自己会合ドメイン形成が界面物性に大きな影響を与えていると考えられる。

Chiho Watanabe and *Miho Yanagisawa,
Cell-size Confinement effect on Protein Diffusion in Crowding Poly(ethylene)glycol solution,
Physical Chemistry Chemical Physics, in press.

概要: 細胞内の複雑な分子拡散に対する「高分子混雑環境」と「細胞膜によるミクロ空間閉じ込め」の影響を解明するため、脂質膜で覆われた高濃度高分子液滴を細胞モデルとして用い、内部でのタンパク質拡散を実験的に解析した。その結果、高分子濃度と閉じ込めサイズに応じた異常拡散が生じることを見出した。

Atsushi Sakai, Yoshihiro Murayama, Kei Fujiwara , Takahiro Fujisawa, Saori Sasaki, Satoru Kidoaki, and *Miho Yanagisawa,
Increasing Elasticity through Changes in the Secondary Structure of Gelatin by Gelation in a Microsized Lipid Space,
ACS Central Science, in press.

概要: 脂質膜で覆われた細胞モデル内においてゼラチンがゲル化すると、2次構造が変化することによって、通常のゲルよりもゲル弾性率が高くなることを見出した。 【柳澤:研究全体の総括,藤原:ゼラチンの構造解析に貢献】

Kyongwan Kim, Natsuhiko Yoshinaga, Sanjib Bhattacharyya, Hikaru Nakazawa, Mitsuo Umetsu, and *Winfried Teizer,
Large-scale chirality in an active layer of microtubules and kinesin motor proteins,
Soft Matter, in press.

概要: 生物個体の発生において左右の決定は体の軸を決める重要な過程である。卵細胞におけるいかなるキラリティーも大きなスケールでのキラリティーを決める要素となり、例えば、細胞骨格の要素である微小管はキラリティーを持ったものである。しかし、分子レベルのキラリティーがどのようにして細胞レベルのキラリティーへと階層的に結びつくのかは未解明である。我々は、キネシン分子モーターと微小管の擬二次元層において、ミリメートルスケールの大域的なネマティック秩序が生じ、これが反時計回りに回転することを見出した。理論モデルを用いた解析から、このネマティック秩序は、メチルセルロースによる局所的な配向の効果から生じ、回転は微小管の自発曲率から起きることが分かった。

*Hiroyuki Kitahata and Natsuhiko Yoshinaga,
Effective diffusion coefficient including the Marangoni effect,
Journal of Chemical Physics 148, 134906 (2018).

概要: 水面の粒子から表面張力を変化させる化学物質が溶け出すと、水面に化学物質の濃度勾配ができてそれがマランゴニ対流を作り出す。また、移流によって対流が化学物質を輸送することによって、化学物質の拡散は速くなる。このマランゴニ対流の効果を解析的に取り入れ、実効的な拡散係数を計算した。見積もった拡散係数と数値計算、および実験の結果とを比較しよい一致を得ている。 【北畑裕之(理論の構築、数値計算、論文執筆)】

Masaki Mizutani, Isil Tulum, Yoshiaki Kinosita, Takayuki Nishizaka, Makoto Miyata,
Detailed Analyses of Stall Force Generation in Mycoplasma mobile Gliding,
Biophysical Journal 114, 1411-1419 (2018).

Takumi Furusato, Fumihiro Horie, Hideaki T. Matsubayashi, Kazuaki Amikura, Yutetsu Kuruma, and *Takuya Ueda,
De novo synthesis of basal bacterial cell division proteins FtsZ, FtsA, and ZipA inside giant vesicles,
ACS Synthetic Biology, (2018).

概要: 細胞分裂に関わる主要な3種の膜表在タンパク質を、巨大膜小胞(GUV)と試験管内タンパク質合成系から成る人工細胞内部で合成し、膜の形状変化を観察した。3種のうちZipAは、脂質二重膜を貫通するドメインを持った膜挿入タンパク質である。このZipAが細胞分裂時にリング形成をするFtsZを膜上にリクルートし、さらに突起状に膜を形態変化させることを見出した。今回の結果は、2種類のタンパク質のみが膜上で相互作用することで、脂質膜の形を変化させることを示したものである。

Yoshiaki Kinosita, Yoshitomo Kikuchi, Nagisa Mikami, Daisuke Nakane, Takayuki Nishizaka,
Unforeseen swimming and gliding mode of an insect gut symbiont, Burkholderia sp. RPE64, with wrapping of the flagella around its cell body,
The ISME Journal 3, 838-848 (2018).

Cornelia Monzel, Alexandra S. Becker, Rainer Saffrich, Patrick Wuchter, Volker Eckstein, Anthony D. Ho & *Motomu Tanaka,
Dynamic cellular phynotyping defines specific mobilization mechanisms of human hematopoietic stem and progenitor cells induced by SDF1α versus synthetic agents,
Scientific Reports 8, 1841 (2018).

概要: 造血前駆幹細胞(HSPC)の効率的な可動化は、移植治療に用いるHSPCを十分量確保するための拡大培養における大きな課題である。本研究では、骨髄ニッチモデルの構築、生細胞イメージング技術、統計物理学的手法を駆使し、臨床現場で細胞可動化に使用されている薬剤NOX-A12およびAMD3100の効果を定量し、骨髄中の遊走誘導因子SDF1αの効果と比較した。その結果、NOX-A12はCXCR4とSDF1αを介するHSPCのニッチ表面への接着を抑制し、SDF1αよりもHSPCの遊走軌道を伸長することを見出した。一方、AMD3100では細胞接着と遊走のどちらにも影響が見られなかった。さらに、SDF1αやAMD3100の添加により誘起されるHSPCの変形はNOX-A12によって顕著に抑制されることが分かった。これらの定量的手法による「動的表現系」の評価により、生体内誘導因子と比較して外部因子である薬剤の機能を明らかにした。

Suyong Re, Shigehisa Watabe, Wataru Nishima, Eiro Muneyuki, Yoshiki Yamaguchi, Alexander D. MacKerell Jr. and *Yuji Sugita,
Characterization of Conformational Ensembles of Protonated N-glycans in the Gas-Phase,
Scientific Reports 8, 1644 (2018).

概要: イオンモビリティー質量分析法(IM-MS)は生体分子の構造変化を衝突断面積から調べることができ,最近の技術の進歩によって微細な立体配座の違いで糖鎖異性体を分離できるとして注目を集めている.しかし,糖鎖は複数の安定構造をとっているため,構造を特定するのは困難である.今回,我々は,気相中のエレクトロスプレーイオン化の条件下でのN-グリカンの立体構造アンサンブルをレプリカ交換MD法を用いて解析した.その結果,衝突断面積で同位体を分類すると,それがN-グリカンの化学組成やプロトン化状態を反映する折り畳み構造を反映していることがわかった.N-グリカンの衝突断面積の物理化学的基礎付けはIM-MSによる測定結果の解釈だけでなくより複雑な糖鎖の衝突断面積の推定にも使える.

Giordano Rampioni, Francesca D’Angelo, Marco Messina, Alessandro Zennaro, Yutetsu Kuruma, Daniela Tofani, Livia Leonia, and *Pasquale Stano,
Synthetic cells produce a quorum sensing chemical signal perceived by Pseudomonas aeruginosa,
Chemical Communications, in press (2018).

概要: クオラムセンシングは、一環境中における細胞密度をお互いにセンシングするバクテリアの機構である。そのシグナル分子であるホモセリンラクトン(HSL)を人工細胞内で合成し、実際のバクテリアとの間でHSLを介したコミュニケーション系を再現した。HSLは通常バクテリア細胞内で、RhlIという酵素によって合成される。本研究ではこのRhlIの合成自体から人工細胞で行なったものであるため、生細胞のように自律的に振る舞うことのできる。本研究は、人工物と生きた細胞の間で、化学物質を介した情報伝達系を実現したものであり、プログラムされたドラッグデリバリー系としての応用が見込まれる。

2017

Kazunori Yamamoto, *Akatsuki Kimura,
An anisotropic attraction model for the diversity and robustness of cell arrangement in nematodes.,
Development 144, 4437-4449 (2017).

概要: 私たち多細胞生物は、たった一つの細胞(受精卵)が細胞分裂で数を増やすことによって形成されます。この個体形成の過程では、細胞同士の配置関係が重要です。細胞の配置パターンは種によって多様で、一般にそれぞれ固有のパターンを持っていますが、細胞の配置パターンを決めるしくみはわかっていませんでした。本研究では、特定の種の線虫(C. elegans)の「卵の形」を変えると細胞の配置パターンが「他種の線虫のパターン」に変化することを発見しました。つまり、細胞の“容器”の役割を果たす卵の形が細胞の配置パターンに重要だったのです。また、卵の形の変化と細胞配置パターンの変化を再現する数理モデルを世界で初めて構築しました。本研究で提唱する細胞の配置パターン決定のしくみは、ヒトをはじめとする様々な生物に共通すると考えられます。 【田中求( アドバイス)】

*Kei Fujiwara, *Miho Yanagisawa,
Liposomal internal viscosity affects the fate of membrane deformation induced by hypertonic treatment,
Soft Matter 13, 9192-9198 (2017).

概要: 細胞質のように高粘性な高濃度高分子溶液を内包したリポソームが、高浸透圧下で脱水する際に示す膜変形機構を解析した。その結果、膜変形のパターンが内部粘性値に依存して変化し、ある閾値を超えると小胞化からチューブ形成へ転移することを見出した。 【藤原慶・柳澤実穂:全ての実験及び解析】

*Kei Fujiwara, *Miho Yanagisawa,
Liposomal internal viscosity affects the fate of membrane deformation induced by hypertonic treatment,
Soft Matter 13, 9192-9198 (2017).

概要: 人工脂質膜は、生細胞の変形パターンの物理的メカニズムを理解するために利用されてきたが、典型的な人工膜システムは、生細胞の細胞質中のものと比較して希薄成分のみしか含まない。本研究では生細胞と同様の高密度タンパク質溶液を含む巨大単層リポソームを使用することにより、内部クラウディングに由来する粘性が脂質膜の変形パターンに影響を及ぼすことが明らかにした。高浸透圧処理後、初期内部高分子濃度を高めると、リポソームの変形パターンが出芽からチューブ状に移行した。注目すべきことに、BSA、細胞抽出液という二種の高分子において、パターン転移点における粘性値が類似していた。今回の結果は、細胞質の粘性が細胞の変形を決定する重要な要因であることを示すと同時に、高浸透圧処理による変形パターンには、Viscous Fingeringのような速度論的な不安定性の関与しうることを示唆している。

Kenji Nishizawa, Kei Fujiwara, Masahiro Ikenaga, Nobushige Nakajo, Miho Yanagisawa , and Daisuke Mizuno,
Universal glass-forming behavior of in vitro and living cytoplasm,
Scientific Reports 7, 15143 (2017).

概要: 様々な細胞から抽出したが非常に多成分な細胞抽出液が示すレオロジー特性と、その高分子濃度依存性を解明した。 【柳澤実穂:細胞モデルなかでの高分子溶液の粘度測定】

Kenji Nishizawa, Kei Fujiwara, Masahiro Ikenaga, Nobushige Nakajo, Miho Yanagisawa, *Daisuke Mizuno,
Universal glass-forming behavior of in vitro and living cytoplasm,
Scientific Reports 7, 15143 (2017).

概要: 細胞質は様々な巨大分子で非常に混雑している。本研究では、ビーズ粒子を用いたマイクロレオロジーを行い、試験管により出した細胞質および生細胞の細胞質の力学を研究し、細胞質の濃度に依存したガラス転移の直接的な証拠を得た。さらに、ガラス形成挙動は、異なる種および発生段階に由来する細胞質試料において普遍的に見出された。試験管に取り出した細胞質が濃度に対し弱いガラスのような振る舞いをするのに対し、生細胞では強いガラスのような蛍光を示した。これらの結果は、生きた細胞質は、代謝によって積極的に駆動されているため、非生物の細胞とは根本的に異なるガラスを形成していることを示唆する。 

*Shinji Watanabe, Toshio Ando,
High-speed XYZ-nanopositioner for scanning ion conductance microscopy,
Applied Physics Letters, VOL. 111, PP. 113106-1/113106-4 111, 113606-1/113601-4 (2017).

概要: 走査型イオン伝導顕微鏡(SICM)のための高速XYZナノポジショナーを設計した。Z、XYアクチュエータの共振周波数はそれぞれ100kHz、2.3kHzであり、ストロークは、それぞれ6um、34umである。設計したナノポジショナーは、半径10nmのナノポアを有するプローブを用いて、近接速度400nm/msでイメージングできることを検証した。

*Kei Fujiwara, Tsunehito Sawamura, Tatsuya Niwa, Tatsuki Deyama, Shin-ichiro M. Nomura, Hideki Taguchi, Nobuhide Doi,
In vitro transcription–translation using bacterial genome as a template to reconstitute intracellular profile,
Nucleic acids research gkx776, (2017).

概要: 生命はゲノムにコードされた遺伝子が転写翻訳されることで成り立っている。本研究ではこのプロセスを試験管内で実現する手法を構築した。結果、試験内においてゲノムDNAを転写翻訳系することで、増殖期の細胞様の転写翻訳プロファイルを再現可能であることを示した。本成果は生命の設計図解明に大きく貢献する。

*Natsuhiko Yoshinaga and Tanniemola B. Liverpool,
Hydrodynamic interactions in dense active suspensions: From polar order to dynamical clusters,
Physical Review E Rapid Communications 96, 020603(R) (2017).

概要: アクティブな粒子懸濁液の流体力学的相互作用による集団運動について解析を行った。異なった長さスケールの流体相互作用を計算する新しい手法を用いることで、流体力学的相互作用の長距離部分だけでなく、同様に重要な粒子が非常に近づいた時の潤滑相互作用を取り入れた解析を行うことができた。過去報告されてきた自己駆動による相分離現象は流体力学的相互作用によって抑えられ、その代わりにゲル状のダイナミックなクラスターが形成することが分かった、また、長距離相互作用ではなく、潤滑相互作用によって大域的な配向秩序が現れることが明らかになった。

Yuki Sakamoto, and *Shoichi Toyabe,
Assembly of a functional and responsive microstructure by heat bonding of DNA-grafted colloidal brick,
Scientific Reports 7, 9104 (2017).

概要: 生体内で運動するミクロなロボットを造るためには,柔軟な構造,多様な生体分子と相互作用可能な表面,そして,動的な運動能が必要であるしかし,これらを1から造り上げるのは困難である.一方,多様な物理的・化学的機能を持つマイクロ粒子が販売されている.これらを自在に組み合わせて構造を造れば,ミクロなロボットを実現するハードルが大きく下がると期待できる.我々は,ヘアピン状DNAのヒステリシスと顕微鏡下での局所的な加熱を組み合わせ,ミクロな構造体を自在に造形する技術を開発した.これを用い,磁場に反応して動くロボットアームや,局所的に硬さを変化させたヒンジ構造,また,3次元の2重らせん構造など,複雑で外場に応答する構造を造形することに成功した.

Marcel Hörning, Masaki Nakahata, Philip Linke, Akihisa Yamamoto, Mariam Veschgini, Stefan Kaufmann, Yoshinori Takashima, Akira Harada & *Motomu Tanaka,
Dynamic mechano-regulation of myoblast cells on supramolecular hydrogels cross-linked by reversible host-guest interactions,
Scientific Reports 7, 7660 (2017).

概要: β‐シクロデキストリンとアダマンタンのホスト‐ゲスト相互作用で架橋された新規なヒドロゲル基板を用いて、細胞-基板相互作用を動的に制御することに成功した。ゲルの弾性率の初期設定値は、ホストあるいはゲスト基がついたモノマーの分率を用いることで、細胞に合わせたレベルに設定可能である。ホスト‐ゲスト相互作用の可逆性を活用することで、溶液中のホスト分子(β‐シクロデキストリン)の濃度によって、基板弾性率を上げたり(硬化)下げたり(軟化)することが可能となる。基板の弾性率を任意の時刻に変化させることで細胞の力学的微小環境を動的にスウィッチングできる。本研究で用いたホスト-ゲストゲルの弾性率は4-11 kPaの範囲にあり、これは筋芽細胞の形態や細胞骨格のネマチック秩序変数を静的・動的に制御するのに理想的な範囲である。我々の刺激応答性ゲルは、UV光や温度変化に応答する従来型の刺激応答性材料と比べて細胞活性を損ねることなく、さまざまな細胞に力学的なコマンドを与えることを可能にした。

Kazusa Beppu, Ziane, Izri, Jun Gohya, Kanta Eto, Masatoshi Ichikawa, and *Yusuke T. Maeda,
Geometry-driven collective ordering of bacterial vortices,
Soft Matter 13, 5038 (2017).

概要: 自律的に動く要素(アクティブマター)が多数あつまると、運動方向の相関が長距離にわたって持続する集団運動が出現する。代表的なアクティブマターであるバクテリアは、高密度の集団において擬2次元平面内で大小さまざまな渦構造が入り乱れる乱流様の運動を示す。本研究では、境界形状を自在に設計する新たな手法を開発し、円形境界のもとにおくと渦運動が出現し、複数の渦が接すると回転方向が揃う相や交互に入れ替わる相が出現することを見出した。2つの渦が対をなした渦ペアには、同じ向きの強磁性ペアと反対向きの反強磁性ペアがあり、その転移は幾何パラメータで決定されることがわかった。この幾何的ルールは複雑な境界にも適用できるアクティブ渦運動の制御原理と考えられる。 【市川 正敏:実験結果に対する議論】

Chikako Kurokawa, Kei Fujiwara, Masamune Morita, Ibuki Kawamata, Yui Kawagishi, Atsushi Sakai, Yoshihiro Murayama, Shin-ichiro M. Nomura, Satoshi Murata, *Masahiro Takinoue, and *Miho Yanagisawa,
DNA cytoskeleton for stabilizing artificial cells,
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 114, 7228-7233 (2017).

概要: リポソームの強度を上げるため、細胞骨格のように膜を支えるネットワーク構造をDNAナノテクノロジーにより構築しました。本研究で用いたDNAは、温度低下に伴い、分岐を維持しながら互いに結合してネットワーク状の構造を作ります。またDNAはマイナスの電荷を帯びているため、リポソームの中のみにプラスの電荷を帯びさせることで、プラスとマイナスの引き合いにより膜直下へDNAの骨格を形成させることができました。リポソームは通常わずかな浸透圧差で崩壊してしまいますが、DNAからなる骨格を持つことにより体内で想定される浸透圧変化環境においても崩壊しないことを確認しました。この補強機能は、DNAが互いにネットワークを組むことに由来し、さらにその強度はDNAの塩基配列により決定されています。そのため、DNA構造を設計することによる強度制御が期待されます。 【藤原慶,リポソーム作成の実験的サポート】

Chikako Kurokawa, Kei Fujiwara, Masamune Morita, Ibuki Kawamata, Yui Kawagishi, Atsushi Sakai, Yoshihiro Murayama, M Nomura Shin-ichiro, Satoshi Murata, *Masahiro Takinoue, *Miho Yanagisawa,
DNA cytoskeleton for stabilizing artificial cells,
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 114, 7228-7233 (2017).

概要: リポソームおよび脂質液滴は、多くの用途に使用されてきたが、機械的な脆さが問題であった。 この問題を解決するために、我々はDNAナノテクノロジーで人工的な細胞骨格を構築した。 DNA細胞骨格により、機械的安定性は著しく改善され、浸透圧ショックのような刺激に対する耐性が生じた。 その生体適合性および設計変更の容易さのために、DNA細胞骨格は、リポソームおよび脂質液滴の安定化のためのツールになり得る。 【Miho Yanagisawa: 研究の全体的なとりまとめとDNA細胞骨格と形成と物性の評価】

Takahisa Matsuzaki, Hiroaki Ito, Veronika Chevyreva, Ali Makky, Stefan Kaufmann, Kazuki Okano, Naritaka Kobayashi, Masami Suganuma, Seiichiro Nakabayashi, Hiroshi Y. Yoshikawa and *Motomu Tanaka,
Adsorption of galloyl catechin aggregates significantly modulates membrane mechanics in the absence of biochemical cues,
Physical Chemistry Chemical Physics 19, 9937-19947 (2017).

概要: 本研究では緑茶に含まれる4つのカテキン誘導体が細胞膜モデルと相互作用するメカニズムを系統的に研究した。ガロイル基を持つカテキンは小さな単層膜ベシクルの凝集と表面圧の上昇を誘起したが、ガロイル基を持たないものは膜と相互作用を示さなかった。実際にカテキン分子の膜への分配係数を計測すると、脂質-カテキンの相互作用において支配的な役割を果たしているのが、カテキンのガロイル基とリン脂質の第4級アミンの相互作用(π-カチオン相互作用)であることがわかった。最後にカテキンが脂質膜の力学的特性に与える影響を膜の揺らぎのフーリエ解析を用いて明らかにした。1 mMのカテキン存在下(緑茶を経口摂取した後の血中濃度に対応)における脂質膜の曲げ弾性に着目すると、ガロイル基を持つカテキンの存在下では曲げ弾性が60倍以上増加するが、ガロイル基のない誘導体の場合検出できるような変化は見られなかった。このような成果は、緑茶カテキンががんの予防のような臨床治療にカテキンが作用する物理的(一般的)なメカニズムを明らかにするのに貢献する。

Yuki Hara, Kenta Adachi, Shunsuke Kagohashi, Kazuo Yamagata, Hideyuki Tanabe, Shinji Kikuchi, Sei-Ichi Okumura, and *Akatsuki Kimura,
Scaling relationship between intra-nuclear DNA density and chromosomal condensation in metazoan and plant.,
Chromosome Science 19, 43-49 (2017).

概要: 真核生物の染色体の基本的な構造は種を超えて保存されているため、多くの遺伝情報(塩基対の長さ)を持つ生物種は、その量に比例して、細胞内の染色体の物理的な長さも長いと思われるかもしれません。しかし、実際はそう単純ではありません。国立遺伝学研究所の木村暁教授は、山口大学、北里大学、千葉大学、近畿大学、総合研究大学院大学(総研大)の研究者と共同で、総研大学融合プロジェクト、および情報・システム研究機構未来投資プロジェクトを遂行するチームを組織し、様々な生物種を用いて、DNAの量、染色体の物理的な長さ、細胞核の大きさなどを比較しました。その結果、間期核内の密度と、分裂期染色体の凝縮度の間に、種を超えた相関関係があることを見出しました。DNAの量が増えても、染色体の長さは比例して長くなるわけではなく、DNA密度が高くなれば、その分、分裂期染色体はより凝縮度を増すために、分裂期染色体の長さはそれほどは長くならないのです。研究チームの定量的解析は、種間による分裂期の染色体の長さの違いは、核の表面積と比例的な関係にあることを示唆しました。この関係は、細胞が分裂する際に、分裂板と呼ばれる領域の中に染色体を収納するのに重要ではないかと推察されます。本研究は、進化の過程で染色体の大きさや凝縮度に対して種を越えた制約がかかっていることを示唆し、今後の研究の足がかりになると期待されます。 【坂上貴洋(議論)】

Daisuke Nakane and Takayuki Nishizaka*,
Asymmetric distribution of type IV pili triggered by directional light in unicellular cyanobacteria,
Proceedings of the National Academy of Sciences 114, 6593-6598 (2017).

概要: 「バクテリア」は、もっとも単純な生命体の1つであり、大きさは1ミリの1000分の1程しかありません。ところが、動く仕組みに注目すると、実に多様で複雑な様式を発達させていることが知られています。本研究では、光合成微生物のラン藻が、細い糸のような繊維状構造物を持ち、その伸長収縮を繰り返す様子を撮影することに成功しました。さらに、独自の光学顕微鏡を駆使することで、この生命体は、指向性のある光という外部シグナルによって、その運動を制御する能力を持つことを明らかにすることができました。これは「視覚を備えたバクテリア」という点でも画期的です。光を感知するだけでなく、光の向きを認識するという事実は、単純な生命体が、高度な情報処理を達成していることをあらわしています。スパイダーマンのようなバクテリアは、非常に単純ではあるが初歩的な視覚を備えることで、自身の持つ「糸」を伸縮させる方向を自由自在に制御していると考えられます。

Ritsuko Arai, Takeshi Sugawara, Yuko Sato, Yohei Minakuchi, Atsushi Toyoda, Kentaro Nabeshima, Hiroshi Kimura, *Akatsuki Kimura,
Reduction in chromosome mobility accompanies nuclear organization during early embryogenesis in Caenorhabditis elegans.,
Scientific Reports 19, 43-49 (2017).

概要: 遺伝情報を担う染色体DNAは長い繊維ですが、球形の細胞核の中にただやみくもに詰められているわけではありません。染色体ごと、あるいは機能領域ごとに整理されて細胞核内に整頓されていると考えられていますが、そのような整頓された構造が生物の個体発生の過程でどのようにできあがるのかについては不明な点が残されています。国立遺伝学研究所・細胞建築研究室の荒井律子元研究員らは、同・比較ゲノム解析研究室や東京工業大学の研究グループと共同で、線虫の初期胚発生の過程における染色体の動きを可視化・定量化し、受精卵が3回分裂した8細胞期のあたりで、急激に動きが小さくなることを見つけました。染色体の核内での存在様式は、遺伝子の発現など様々な染色体機能に関わると予想されます。実際に研究チームは、染色体の動きが小さくなる時期が、遺伝子の活性の指標となる染色体の化学修飾の変化や核小体の構造が明確になる時期と同時期であることも見出しました。したがって、今回見出した染色体の動きは、染色体の”整頓”の指標になり得ると考えます。 【坂上貴洋(議論)】

Shoko Fujimura, Yuko Ito, Mitsunori Ikeguchi, Kengo Adachi, Junichiro Yajima, Takayuki Nishizaka,
Dissection of the angle of single fluorophore attached to the nucleotide in corkscrewing microtubules,
Biochemical and Biophysical Research Communications 485, 614-620 (2017).

Kenji Kimura, Alexandre Mamane, Tohru Sasaki, Kohta Sato, Jun Takagi, Ritsuya Niwayama, Lars Hufnagel, Yuta Shimamoto, Jean-François Joanny, Seiichi Uchida, and Akatsuki Kimura,
Endoplasmic reticulum-mediated microtubule alignment governs cytoplasmic streaming.,
Nature Cell Biology 19, 399-406 (2017).

概要: 細胞内の流れ(細胞質流動)は、人間社会の流行のように気まぐれに逆転することがあります。流行の生成と逆転の原動力には、自らの意見や行動を周りの変化に合わせる「同調現象」が深く関わっています。興味深いことに、線虫の受精卵では細胞質流動の流れの向きが気まぐれに逆転します。細胞内の流れは微小管が作るレールの上を物質が運ばれることによって生じるので、レールが一方向にそろうとより大きな流れが生じます。本研究では、細胞内に網目状に広がる小胞体が、微小管レールの方向性を同調させる「ネットワーク」の役割を担っていることを発見しました。さらに、微小管レールを人為的に長くすると流れの向きの逆転がほとんど起こらなくなることから、逆転の頻度が微小管レールの長さで決まることを突き止めました。すなわち、小胞体の動きが流れの同調効果を生み、微小管の長さが細胞質流動の逆転の頻度に影響するのです。細胞質流動は動物胚の発生や植物の成長に重要な役割を果たしています。本研究は、細胞質流動の生成と逆転のメカニズムを明らかにしたことで、細胞質流動が関与する初期発生のしくみの解明につながると期待できます。また、同調やその逆転を細胞内で操作できることを明らかにしたことから、人間社会と自然界の両方で見られる同調現象のしくみを明らかにする良いモデルケースとなることも期待されます。 【和田浩史(アドバイス)】

*Sho Fujii, Ryuta Fukano, Yoshihito Hayami, Hiroaki Ozawa, Eiro Muneyuki, Noboru Kitamura, and *Masa-aki Haga,
Simultaneous Formation and Spatial Patterning of ZnO on ITO Surfaces by Local Laser-Induced Generation of Microbubbles in Aqueous Solutions of [Zn(NH3)4]2+,
ACS Applied Materials & Interfaces 9, 8413-8419 (2017).

概要: [Zn(NH3)4]2+溶液中のITOの表面を1064nmのレーザーで局所的に加熱し,マイクロバブルを作ることによって,ITO上にZnOのナノクリスタルで幅1μm厚さ60nmのパターンをマスクを使うことなく描画できた.ZnOのナノクリスタルができていることはX線回折顕微ラマン分光によって確認した.このパターン形成の機構は,マイクロバブルの近傍でマランゴニ対流が起こることで,溶液に溶けた [Zn(NH3)4]2+が素早く濃縮・蓄積され固体・液体.気体の接点でZnOのナノクリスタルができたものと考えられる.

Yuji Higaki,Benjamin Fröhlich, Akihisa Yamamoto, Ryo Murakami,Makoto Kaneko, *Atsushi Takahara, and *Motomu Tanaka,
Ion-specific modulation of interfacial interaction potentials between solid substrates and cell-sized particles mediated via zwitterionic, super-hydrophilic poly(sulfobetaine) brushes,
The Journal of Physical Chemistry B 121, 1396−1404 (2017).

概要: 双イオン性高分子材料は、その超親水性や自己清浄化特性だけでなくその優れた抗生体付着性から近年注目を集めている。本研究では密にパッキングしたブラシ構造をとる、ポリスルフォベタインによる、界面相互作用ポテンシャルの変調を精密計測した。細胞サイズのラテックス微粒子の界面垂直方向への高さ揺らぎを反射干渉顕微鏡でラベルフリーで検出し、高さ揺らぎの自己相関関数と実効界面ポテンシャルを求めた。ポテンシャルの二次微分(ポテンシャル曲率)は、1価の金属カチオン濃度の上昇に伴って単調増加を示したが、2価のカルシウムイオンの濃度に対しては逆の依存性を示した。このことから、双イオン性のポリマーブラシに対するイオン特異的相互作用は古典的なHoffmeisterシリーズで説明できないことが示された。ポリマー側鎖と同じ構造を持つスルフォベタインの溶液中では、高さ揺らぎの自己相関関数の減衰から求められる流体力学的摩擦係数が顕著に落ちることが見出された。この観測結果は溶液中のスルフォベタインが高分子側鎖のスルフォベタインとペアになることを示唆している。同じ計測・解析をヒト赤血球で行ったところ、ポテンシャル曲率も摩擦係数も非常に小さな値を示した。この二つの数値が小さいことは双イオン性のポリマーブラシがもつ、非常に優れた抗血液付着性を説明するものである。 

2016

Kano Suzuki, Kenji Mizutani, Shintaro Maruyama, Kazumi Shimono, Fabiana L. Imai, Eiro Muneyuki, Yoshimi Kakinuma, Yoshiko Ishizuka-Katsura, Mikako Shirouzu, Shigeyuki Yokoyama, Ichiro Yamato and *Takeshi Murata,
Crystal structures of the ATP-binding and ADP-release dwells of the V1 rotary motor.,
Nature Communications 7, 13235 (2016).

概要: V1-ATPaseは多くの生体膜系に存在する,非常によく保存されたATP駆動型の分子モーターである.我々は最近 Enterococcus hirae由来のA3B3DF (V1) 複合体について加水分解待ちの状態に対応する結晶構造を報告した.今回ヌクレオチドのないV1-ATPaseをADPに浸すことによって得られた他の2つの反応中間体に対応する構造を報告する. 20 μM ADP存在下ではADP分子が3つの触媒部位のうちの2つに結合し,三つめの触媒部位にATPが結合するのを待つ状態となった.2mM ADP存在下ではすべての触媒部位にADPが結合しADP遊離を待つ状態となった.以前からの知見と併せてV1-ATPaseの回転機構のモデルを提案する. 【宗行英朗 役割は第1著者の鈴木氏と共に蛍光測定とそのデータ処理を行い,V1-ATPaseに対するADP結合の様子を溶液系で検討した.】

Shunsuke Yabunaka, Natsuhiko Yoshinaga,
Collision between chemically-driven self-propelled drops,
Journal of Fluid Mechanics 809, 205-233 (2016).

概要: 相分離する二成分混合系として記述される自己駆動液滴の衝突について解析し、数値計算を行った。液滴は等方的な化学反応によって駆動され、表面張力勾配を自発的に生成して運動する。等方的な化学物質濃度の分布が、マランゴニ効果による液滴の運動によって不安定化する。この自己駆動運動についての対称性の破れは、粒子そのものに非対称性が存在するsquirmerや自己泳動粒子などの他の自己駆動のメカニズムと異なるものである。そのため、静止状態と運動状態との間に分岐が存在する。二つの液滴が、同じ軸上で反対方向に運動すると、流体相互作用と濃度場による相互作用が生じる。我々は、液滴の衝突が、自己駆動運動の転移点から距離によって、弾性的に振る舞う場合と、融合する場合が存在することを発見した。転移点からの距離は例えば粘性などによってコントロールできる。弾性的な衝突は、化学反応によるエネルギーの注入と流体運動による散逸がバランスすることによって生じる。我々は、衝突に対する縮約された方程式を導出し、それらを解析した。その結果、正面衝突に関しては濃度場による相互作用が流体相互作用より支配的になることを明らかにした。

Yoshiaki Kinosita, *Nariya Uchida, Daisuke Nakane and *Takayuki Nishizaka,
Direct observation of rotation and steps of the archaellum in the swimming halophilic archaeon Halobacterium salinarum,
Nature Microbiology 1, 16148/1-9 (2016).

概要: 古細菌はアーケラム(古細菌べん毛)とよばれる回転するフィラメントを用いて遊泳する。その機構を理解するため、われわれはモデル生物であるハロバクテリウム・サリナラムに注目した。量子ドットの3次元トラッキングによって、古細菌べん毛の左ねじ螺旋運動の詳細な可視化を可能とした。全反射照明蛍光顕微鏡と組み合わせた先進的な解析手法(クロス・キモグラフィー)が開発され、回転率 23±5 Hzで回転する右ねじ螺旋構造が明らかになった。これらの構造的、運動学的パラメータを用いた流体力学モデルによって、遊泳および歳差運動を数値的に再現し、モータートルクを 50 pN・nm と評価した。最後にテザードセル法によって、約36°または 60°間隔での回転の一時停止を観察した。これは1個の ATP を消費する1つのステップであると推測され、このことからモーターのエネルギー効率は 6〜10% と計算された。 【西坂崇之(研究計画全般の統括と実験の企画、実行)】

Yoshiaki Kinosita, *Nariya Uchida, Daisuke Nakane, and *Takayuki Nishizaka,
Direct observation of rotation and steps of the archaellum in the swimming halophilic archaeon Halobacterium salinarum,
Nature Microbiology 1, 16148/1-9 (2016).

*Yuko Sato, Tomoya Kujirai, Ritsuko Arai, Haruhiko Asakawa, Chizuru Ohtsuki, Naoki Horikoshi, Kazuo Yamagata, Jun Ueda, Takahiro Nagase, Tokuko Haraguchi, Yasushi Hiraoka, Akatsuki Kimura, Hitoshi Kurumizaka, and *Hiroshi Kimura,
A genetically encoded probe for live-cell imaging of H4K20 monomethylation.,
Journal of Molecular Biology 428, 3885-2902 (2016).

概要: 本研究ではヒストンH4蛋白質の20番目のリジン残基がモノメチル化修飾された状態(H4K20me1)を特異的に生体内で可視化する技術の開発に成功した。ヒストンタンパク質はDNAと共に遺伝情報を司る染色体の主要な構成成分であり、ヒストン蛋白質の化学修飾は、遺伝子の働きを制御する重要な役割を果たしている。その中でもH4K20me1は、DNA損傷修復や不活性X染色体の目印として重要であることが知られていたが、生きた細胞内での修飾の変化を観察する技術はなかった。今回、H4K20me1に特異的に結合する抗体の遺伝情報を利用して、生きた細胞内でH4K20me1を検出する細胞内抗体プローブH4K20me1-mintbodyを開発し、生きた細胞や線虫で転写抑制されたX染色体のライブイメージングに成功した。このプローブはヒストンの化学修飾による遺伝子の制御の解明に今後広く利用することが期待される。

Ritsuya Niwayama, Hiromichi Nagao, Tomoya Kitajima, Lars Hufnagel, Kyosuke Shinohara, Tomoyuki Higuchi, Takuji Ishikawa, and *Akatsuki Kimura,
Bayesian Inference of Forces Causing Cytoplasmic Streaming in Caenorhabditis elegans Embryos and Mouse Oocytes.,
PLoS ONE 11, e0159917 (2016).

概要: 本研究では、細胞内での大規模な物質の流動現象である細胞質流動に着目し、線虫(C. elegans)とマウスの細胞内の流動の方向性や速さを詳細に定量化しました。この計測データと流体力学シミュレーションモデルを統合したデータ同化によって、流動を引き起こす原動力の強さと分布を推定しました。推定された力の分布は、力の発生に重要な分子の分布と一致し、本手法の妥当性が支持されました。マウスと線虫では原動力の分布が異なっていましたが、その違いはそれぞれの細胞での流動の機能と合致していて、機能に適した力の分布をそれぞれの細胞がとっていることが示唆されました。本手法は生体内で生じる様々な流れの解析に適用可能で、今後多くの研究者に活用されることが期待されます。

Akihiro Tanaka, Daisuke Nakane, Masaki Mizutani, Takayuki Nishizaka, *Makoto Miyata,
Directed binding of gliding bacterium, Mycoplasma mobile, shown by detachment force and bond lifetime,
mBio 7, e00455-16 (2016).

*Shigeru Matsumura, Tomoko Kojidani, Yuji Kamioka, Seiichi Uchida, Tokuko Haraguchi, Akatsuki Kimura, and Fumiko Toyoshima,
Interphase adhesion geometry is transmitted to an internal regulator for spindle orientation via caveolin-1.,
Nature Communications 7, 11858 (2016).

概要: 接着型の細胞において、細胞分裂の方向は、間期の細胞の形(長軸方向)と強い相関があることが知られているが、細胞は分裂期に球状となるため、形の情報が失われる。このことから細胞には、間期の形の情報を分裂期の細胞に伝えるメカニズムがあることが疑われるが、その実体は不明であった。本研究では、細胞が分裂期に球状に変形する際に、間期で細胞の長軸方向の細胞膜が他の細胞膜領域に比べて収縮度が高いこと、さらには、この領域にカベオリン1タンパク質が濃縮することを見出した。カベオリン1タンパク質の濃縮は細胞外基質接着に依存することから、間期の細胞形状を分裂期の細胞へ伝える役割が考えられた。実際に、カベオリン1タンパク質は、細胞分裂の方向を決定付ける紡錘体と呼ばれる構造体の方向を制御することを見出した。以上の結果より、細胞がカドヘリン1タンパク質を介して、間期の形状依存に細胞分裂の方向を制御するメカニズムが明らかとなった。

*Mitsuhiro Sugawa, Kei-ichi Okazaki, Masaru Kobayashi, Takashi Matsui, Gerhard Hummer, Tomoko Masaike, and *Takayuki Nishizaka,
F1-ATPase conformational cycle from simultaneous single-molecule FRET and rotation measurements,
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 113, E2916-2924 (2016).

Yi-Teng Hsiao, Kuan-Ting Wu, Nariya Uchida, and *Wei-Yen Woon,
Impurity-tuned non-equilibrium phase transition in a bacterial carpet,
Applied Physics Letters 108, 183701/1-5 (2016).

概要: バクテリアカーペットが示す非平衡相転移における不純物効果を光ツイーザー・マイクロビーズアッセイによって調べた。V. alginolytics の変異株 (NMB136)からなるカーペット上の集団的な流れは臨界 Na+ 濃度において急激な増加(2次相転移的な挙動)を示す。不純物として野生株(VIO5)を最大 50% まで混入し、相転移挙動の変化を調べた。低濃度(25% 以下)では臨界 Na+濃度が上方にシフトし、高濃度では相転移曲線の鈍化と秩序相における流れ強度の減少が見られた。

Viktoria Frank, Stefan Kaufmann, Rebecca Wright, Patrick Horn, Hiroshi Yoshikawa, Patrick Wuchter, Jeppe Madsen, Andrew Lewis, Steven P. Armes, Anthony D. Ho, and *Motomu Tanaka,
Frequent mechanical stress suppresses proliferation of mesenchymal stem cells from human bone marrow without loss of multipotency,
Scientific Reports 6, 24264 (2016).

概要: 近年多くの研究が、骨髄由来のヒト間葉系幹細胞(hMSC)の分化が生化学的な要素だけでなく、基板のトポグラフィーや剛性などの物理的微小環境にも影響を受けることを示してきた。筆者らは「生きた(in vivo)」骨髄内の幹細胞微小環境が動的に制御されていることに注目し、従来型の共有結合で化学架橋されたヒドロゲルに代わって、基板の硬さ(弾性率)を微小な化学刺激により自在に変えられる、物理架橋した生体適合性ヒドロゲル材料を新たに考案した。このヒドロゲル基板上で増殖させたhMSCは、基板の弾性率に関わらず、20日にわたり多分化能マーカーであるSTRO-1の発現を90%以上維持した。この培養hMSCを脂肪や骨分化を誘導する培養液に移すと、脂肪細胞や骨芽細胞へと分化をした。興味深いことに、基板の弾性を変化させる周期を短くしていくと幹細胞は多分化能を保ったままで増殖が顕著に減少した。たとえば1日おきに基板の硬さを変化させた基板上ではhMSCの増殖は最大90%まで抑制された。このような「動的in vitro幹細胞ニッチ」はhMSCの運命に与える動的な力学的ストレスの役割を明らかにするのに応用できるだけでなく、幹細胞をin vitroで同期化した上で分化誘導する技術基盤となることが期待できる。

Mariam Veschgini, F. Gebert, Nyamdorj Khangai, H. Ito, Ryo Suzuki, Thomas W. Holstein, Yasushi Mae, Takero Arai, and *Motomu Tanaka,
Tracking mechanical and morphological dynamics of regenerating Hydra tissue fragments using a two fingered micro-robotic hand,
Applied Physics Letters 108, 103702 (2016).

概要: ヒドラの細胞組織切片は再生過程において形状を能動的に変化させる。本論文では、力と変形が密接に関係する細胞組織の力学をより定量的に理解するため、精密制御可能な2本指マイクロハンドを用いて再生ヒドラ切片の体積弾性率を非侵襲的かつ高精度で評価した。また、ひずみを一定に保ち、応力の緩和を測定することで、ヒドラ切片の粘弾性特性を決定した。さらに、ヒドラ切片が生み出す力をマイクロハンドによって測定し、その時間変化周期と形状変化の周期が一致することを明らかにした。

*Jun Tamogami, Keitaro Sato, Sukuna Kurokawa, Takumi Yamada, Toshifumi Nara, Makoto Demura, Seiji Miyauchi, Takashi Kikukawa, Eiro Muneyuki, Naoki Kamo,
Formation of M-Like Intermediates in Proteorhodopsin in Alkali Solutions (pH ≧~8.5) Where the Proton Release Occurs First in Contrast to the Sequence at Lower pH,
Biochemistry 55(7), 1036-48 (2016).

概要: 海洋性細菌の持つ光駆動型プロトンポンプであるプロテオロドプシンのプロトンポンプ活性を広いpH範囲で精査したところ,アルカリ性で新たな中間体を含むフォトサイクルが見つかり,そのフォトサイクルではプロトンを輸送するときのプロトンのポンプ蛋白への取込と吐き出しの順番が中性と異なっていることがわかった.更に驚くべきことに,中性条件とアルカリ性条件ではプロトン輸送の方向が逆転することを示唆する結果が得られた.