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A03公募(2016-17) 木村 暁

論文等 | 原著論文

2017

Kazunori Yamamoto, *Akatsuki Kimura,
An anisotropic attraction model for the diversity and robustness of cell arrangement in nematodes.,
Development 144, 4437-4449 (2017).

概要: 私たち多細胞生物は、たった一つの細胞(受精卵)が細胞分裂で数を増やすことによって形成されます。この個体形成の過程では、細胞同士の配置関係が重要です。細胞の配置パターンは種によって多様で、一般にそれぞれ固有のパターンを持っていますが、細胞の配置パターンを決めるしくみはわかっていませんでした。本研究では、特定の種の線虫(C. elegans)の「卵の形」を変えると細胞の配置パターンが「他種の線虫のパターン」に変化することを発見しました。つまり、細胞の“容器”の役割を果たす卵の形が細胞の配置パターンに重要だったのです。また、卵の形の変化と細胞配置パターンの変化を再現する数理モデルを世界で初めて構築しました。本研究で提唱する細胞の配置パターン決定のしくみは、ヒトをはじめとする様々な生物に共通すると考えられます。 【田中求( アドバイス)】

Yuki Hara, Kenta Adachi, Shunsuke Kagohashi, Kazuo Yamagata, Hideyuki Tanabe, Shinji Kikuchi, Sei-Ichi Okumura, and *Akatsuki Kimura,
Scaling relationship between intra-nuclear DNA density and chromosomal condensation in metazoan and plant.,
Chromosome Science 19, 43-49 (2017).

概要: 真核生物の染色体の基本的な構造は種を超えて保存されているため、多くの遺伝情報(塩基対の長さ)を持つ生物種は、その量に比例して、細胞内の染色体の物理的な長さも長いと思われるかもしれません。しかし、実際はそう単純ではありません。国立遺伝学研究所の木村暁教授は、山口大学、北里大学、千葉大学、近畿大学、総合研究大学院大学(総研大)の研究者と共同で、総研大学融合プロジェクト、および情報・システム研究機構未来投資プロジェクトを遂行するチームを組織し、様々な生物種を用いて、DNAの量、染色体の物理的な長さ、細胞核の大きさなどを比較しました。その結果、間期核内の密度と、分裂期染色体の凝縮度の間に、種を超えた相関関係があることを見出しました。DNAの量が増えても、染色体の長さは比例して長くなるわけではなく、DNA密度が高くなれば、その分、分裂期染色体はより凝縮度を増すために、分裂期染色体の長さはそれほどは長くならないのです。研究チームの定量的解析は、種間による分裂期の染色体の長さの違いは、核の表面積と比例的な関係にあることを示唆しました。この関係は、細胞が分裂する際に、分裂板と呼ばれる領域の中に染色体を収納するのに重要ではないかと推察されます。本研究は、進化の過程で染色体の大きさや凝縮度に対して種を越えた制約がかかっていることを示唆し、今後の研究の足がかりになると期待されます。 【坂上貴洋(議論)】

Ritsuko Arai, Takeshi Sugawara, Yuko Sato, Yohei Minakuchi, Atsushi Toyoda, Kentaro Nabeshima, Hiroshi Kimura, *Akatsuki Kimura,
Reduction in chromosome mobility accompanies nuclear organization during early embryogenesis in Caenorhabditis elegans.,
Scientific Reports 19, 43-49 (2017).

概要: 遺伝情報を担う染色体DNAは長い繊維ですが、球形の細胞核の中にただやみくもに詰められているわけではありません。染色体ごと、あるいは機能領域ごとに整理されて細胞核内に整頓されていると考えられていますが、そのような整頓された構造が生物の個体発生の過程でどのようにできあがるのかについては不明な点が残されています。国立遺伝学研究所・細胞建築研究室の荒井律子元研究員らは、同・比較ゲノム解析研究室や東京工業大学の研究グループと共同で、線虫の初期胚発生の過程における染色体の動きを可視化・定量化し、受精卵が3回分裂した8細胞期のあたりで、急激に動きが小さくなることを見つけました。染色体の核内での存在様式は、遺伝子の発現など様々な染色体機能に関わると予想されます。実際に研究チームは、染色体の動きが小さくなる時期が、遺伝子の活性の指標となる染色体の化学修飾の変化や核小体の構造が明確になる時期と同時期であることも見出しました。したがって、今回見出した染色体の動きは、染色体の”整頓”の指標になり得ると考えます。 【坂上貴洋(議論)】

Kenji Kimura, Alexandre Mamane, Tohru Sasaki, Kohta Sato, Jun Takagi, Ritsuya Niwayama, Lars Hufnagel, Yuta Shimamoto, Jean-François Joanny, Seiichi Uchida, and Akatsuki Kimura,
Endoplasmic reticulum-mediated microtubule alignment governs cytoplasmic streaming.,
Nature Cell Biology 19, 399-406 (2017).

概要: 細胞内の流れ(細胞質流動)は、人間社会の流行のように気まぐれに逆転することがあります。流行の生成と逆転の原動力には、自らの意見や行動を周りの変化に合わせる「同調現象」が深く関わっています。興味深いことに、線虫の受精卵では細胞質流動の流れの向きが気まぐれに逆転します。細胞内の流れは微小管が作るレールの上を物質が運ばれることによって生じるので、レールが一方向にそろうとより大きな流れが生じます。本研究では、細胞内に網目状に広がる小胞体が、微小管レールの方向性を同調させる「ネットワーク」の役割を担っていることを発見しました。さらに、微小管レールを人為的に長くすると流れの向きの逆転がほとんど起こらなくなることから、逆転の頻度が微小管レールの長さで決まることを突き止めました。すなわち、小胞体の動きが流れの同調効果を生み、微小管の長さが細胞質流動の逆転の頻度に影響するのです。細胞質流動は動物胚の発生や植物の成長に重要な役割を果たしています。本研究は、細胞質流動の生成と逆転のメカニズムを明らかにしたことで、細胞質流動が関与する初期発生のしくみの解明につながると期待できます。また、同調やその逆転を細胞内で操作できることを明らかにしたことから、人間社会と自然界の両方で見られる同調現象のしくみを明らかにする良いモデルケースとなることも期待されます。 【和田浩史(アドバイス)】

2016

*Yuko Sato, Tomoya Kujirai, Ritsuko Arai, Haruhiko Asakawa, Chizuru Ohtsuki, Naoki Horikoshi, Kazuo Yamagata, Jun Ueda, Takahiro Nagase, Tokuko Haraguchi, Yasushi Hiraoka, Akatsuki Kimura, Hitoshi Kurumizaka, and *Hiroshi Kimura,
A genetically encoded probe for live-cell imaging of H4K20 monomethylation.,
Journal of Molecular Biology 428, 3885-2902 (2016).

概要: 本研究ではヒストンH4蛋白質の20番目のリジン残基がモノメチル化修飾された状態(H4K20me1)を特異的に生体内で可視化する技術の開発に成功した。ヒストンタンパク質はDNAと共に遺伝情報を司る染色体の主要な構成成分であり、ヒストン蛋白質の化学修飾は、遺伝子の働きを制御する重要な役割を果たしている。その中でもH4K20me1は、DNA損傷修復や不活性X染色体の目印として重要であることが知られていたが、生きた細胞内での修飾の変化を観察する技術はなかった。今回、H4K20me1に特異的に結合する抗体の遺伝情報を利用して、生きた細胞内でH4K20me1を検出する細胞内抗体プローブH4K20me1-mintbodyを開発し、生きた細胞や線虫で転写抑制されたX染色体のライブイメージングに成功した。このプローブはヒストンの化学修飾による遺伝子の制御の解明に今後広く利用することが期待される。

Ritsuya Niwayama, Hiromichi Nagao, Tomoya Kitajima, Lars Hufnagel, Kyosuke Shinohara, Tomoyuki Higuchi, Takuji Ishikawa, and *Akatsuki Kimura,
Bayesian Inference of Forces Causing Cytoplasmic Streaming in Caenorhabditis elegans Embryos and Mouse Oocytes.,
PLoS ONE 11, e0159917 (2016).

概要: 本研究では、細胞内での大規模な物質の流動現象である細胞質流動に着目し、線虫(C. elegans)とマウスの細胞内の流動の方向性や速さを詳細に定量化しました。この計測データと流体力学シミュレーションモデルを統合したデータ同化によって、流動を引き起こす原動力の強さと分布を推定しました。推定された力の分布は、力の発生に重要な分子の分布と一致し、本手法の妥当性が支持されました。マウスと線虫では原動力の分布が異なっていましたが、その違いはそれぞれの細胞での流動の機能と合致していて、機能に適した力の分布をそれぞれの細胞がとっていることが示唆されました。本手法は生体内で生じる様々な流れの解析に適用可能で、今後多くの研究者に活用されることが期待されます。

*Shigeru Matsumura, Tomoko Kojidani, Yuji Kamioka, Seiichi Uchida, Tokuko Haraguchi, Akatsuki Kimura, and Fumiko Toyoshima,
Interphase adhesion geometry is transmitted to an internal regulator for spindle orientation via caveolin-1.,
Nature Communications 7, 11858 (2016).

概要: 接着型の細胞において、細胞分裂の方向は、間期の細胞の形(長軸方向)と強い相関があることが知られているが、細胞は分裂期に球状となるため、形の情報が失われる。このことから細胞には、間期の形の情報を分裂期の細胞に伝えるメカニズムがあることが疑われるが、その実体は不明であった。本研究では、細胞が分裂期に球状に変形する際に、間期で細胞の長軸方向の細胞膜が他の細胞膜領域に比べて収縮度が高いこと、さらには、この領域にカベオリン1タンパク質が濃縮することを見出した。カベオリン1タンパク質の濃縮は細胞外基質接着に依存することから、間期の細胞形状を分裂期の細胞へ伝える役割が考えられた。実際に、カベオリン1タンパク質は、細胞分裂の方向を決定付ける紡錘体と呼ばれる構造体の方向を制御することを見出した。以上の結果より、細胞がカドヘリン1タンパク質を介して、間期の形状依存に細胞分裂の方向を制御するメカニズムが明らかとなった。